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2006年5月23日 (火)

奥村晃作 スキーは板に乗ってるだけで

久しぶりに一冊の歌集を買いました。

奥村晃作(敬称略)の「スキーは板に乗ってるだけで」

第10歌集なのだそうですが、この人の歌集を買ったのは初めてです。
でも前から面白い歌を詠む人だなぁと思っていました。
あとがきに20年以上前の代表歌として紹介されていた歌を、転載します。

   ボールペンはミツビシがよくミツビシのボールペンを買ひに文具店に行く

どこで読んだのかはおぼえてないけど、読んだ記憶はしっかり残っている。
この強烈なインパクト。普通じゃない短歌によって描かれる、ごく普通の日常風景。

「三菱のボールペン、なんて書きやすいんだ!」と思って(?)
「よし、もう一本、買いに行こう」と文具店に向かう。
そういう心情と行動が容易に想像できる。
繰り返される「三菱」「ボールペン」で、いかに気に入っているかがわかる。
リズムもいいし、新鮮な感動が描かれている。
特定メーカー製品への愛着心をここまで的確に詠んだ歌なんて他に知りません。
面白く、新しく、良い歌だと思っていました。
が、これまで歌集を買うほどのご縁(?)はありませんでした。

今回、歌集を買ったのは、bk1で偶然、表示されたタイトルに興味をひかれたから。
タイトルに興味をひかれて表紙デザインも見てしまいました。
ナイスな表紙。タイトル文字が雪山をスキーで滑ってるかのごとく傾いている(笑)
これは買いたい!という気になってしまい、衝動買いしてしまいました。
衝動買いでも、大当たり。買ってホントに良かった。
亭主は「変な題の本~」と笑ってましたが「あとがき」を読ませると納得してました。

せっかくなので、タイトルになっている歌を紹介します。

   一日中雪山に滑り疲れなしスキーは板に乗ってるだけで

あ、目で読んだだけじゃダメですよー。
こっそり、ささやき声でいいので、声に出して読んでみて下さい。
それもいやなら、心の中でもいいです。一音一音、音律を感じてみて下さい。
短歌って「目で読む」だけでは味わうことができないと思います。
特に奥村晃作の歌は、そうです。

さて。読みました?
雪山で軽々とスキーを滑らせている気分になり・・・ません?
頬に当たる冷たい風や、スピード感、爽快感まで、この歌にはあるような気がします。
体力がない者でも若くなくても一日中、楽しめてしまう冬のスポーツ、スキー。
今、私がいるのは暑く湿った梅雨の沖縄なんですけど、一瞬、蒸し暑さを忘れます。

この歌集で他にも気に入った歌を、この場で紹介します。

   皿全体のほんのわずかの欠けなれど捨てるほかなし皿というもの

技巧だなぁ、と思うのは「ほかなし」と平仮名になっていること。
「捨てるほかなし」に「かなし」とほのかな感情が入って見える。

皿のことを詠んでいる歌なんですが、ホントに皿のことだけを歌っているのでしょうか。
すごく深読みすると・・・たとえば、人間のことを歌っているようにも読めます。
人間に、ちょっとくらい欠点があっても捨てて欲しくない、という風に・・・。
作者にはそんな意図はないのかもしれません。
欠けた皿を題材に、反語のような歌を詠んだつもりなんて。
でも、完璧主義に対するささやかな反感、反抗心のようなものは伺われますよね。

ほんの少し欠けた皿なんて、誰もが目にするものです。
こういう日常的に目にするものを題材に、さらっと詠んだ風でいながら、深読みも可能。

面白いなぁ、と思います。
あざらしの「タマちゃん」を詠んだ歌とか、いわゆる時事詠(その時々のニュースなどを
題材に詠んだ歌)も、マスコミ報道そのままじゃなくてちゃんと消化されてて、いいです。

   あざらしのタマちゃんどこかにいるのだがぜんぜん報道しなくなったね

さりげなく、さらっと、マスコミ批判ですよねー。
大上段に構えてないのもこの人のスタイルのカッコイイ所だと思います。

奥村晃作はwebでもご自分の歌を公開しておられます。リンクしておきますね。

奥村晃作短歌ワールド

個人的には、webで読むよりも歌集で読む方が面白さが増すので(なぜだろう)
少しずつ歌集を集めてみようと思っています。

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コメント

こんにちは、奥村です。
読ませて頂きました。
短歌の読み込み、深く、正確で、豊かですね。
フシギなご縁を感じます。
本当に有難うございました。

投稿: 奥村晃作 | 2006年5月25日 (木) 10時17分

奥村さん、コメントありがとうございました。
早速読みに来て下さって嬉しいです。
作者の方とこういうやりとりができるのも、インターネットならでは、ですよね。
この時代ならではの、本当にフシギなご縁です。

現代短歌に興味がない人にも、奥村さんの短歌の面白さを伝えたくて、書いた文章です。
でも書いた後で、奥村さんご自身にも読んでもらいたくなってしまい、掲示板に書き込んでしまいました。

私にとってはまだまだ興味深い歌がたくさん残っている歌集です。
また、書かせていただきますね。
(書いたらまた奥村さんのHPの掲示板にお知らせいたします・・・)

投稿: slummy | 2006年5月26日 (金) 01時31分

私も今、歌集を注文しました。
短歌をはじめてまだ二年にもなりませんが、今高いハードルを感じています。
「奥村晃作短歌ワールド」はいつからかお気に入りに入れていましたが書き込む勇気がなくて・・・。
 

こちらのブログを読ませていただいて奥村晃作短歌ワールドに触れてみたくなりました~♪

投稿:  蕗 | 2006年5月26日 (金) 14時06分

蕗さん、コメントありがとうございます。HPも拝見させていただきました。
NHK短歌に投稿してらっしゃるんですね。私も??年前に投稿していたような記憶が・・・もう忘れました(笑)

とある歌人が壁にぶち当たって師匠(?)に相談した、なんて話をどこかで読んだことがあります。
その師匠の答えがふるってて「欧米史について勉強してみなさい」だったかな?とにかく、短歌と全然関係ないことを勧めたんですよ。その歌人は意味がわからないながらも言われた通りに勉強して、しばらくしてから作歌で新境地を開いたとか。
一見、遠回りに思えるようなことをしてみるのも、いいんじゃないでしょうか。偉そうなことを言える立場では全然ありませんが。

奥村晃作の歌はおもしろいですよー。お勧めします。

投稿: slummy | 2006年5月27日 (土) 03時21分

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