2016年3月16日 (水)

第10回沖縄消化管臨床病理研究会のメモ

久しぶりの更新は、病理診断の専門的な内容です。

消化管病理標本は、国内では病理組織検体の中で最も数が多いのではないかと思います。
私は病院育ちの病理専門医で、消化管検体には頻繁に遭遇するため、ほとんど個人の経験の積み重ね(=on the job training)で消化器生検標本を診断しているのですが、たまに勉強会に出ると感動します。
専門家中の専門家って、本当にすごい、と思います。
そんな勉強会、研究会に出席してきました。

先週、開催された第10回沖縄消化管臨床病理研究会の講演メモを貼っておきます。
講師名を(勝手に…すみません鬼島先生!)記載していますが、文責はすべて私にあります。
記録内容として誤っていましたら、メモをとった私のせいだと思われます。
あくまでも私の理解のためのメモなので、講師が使っていない表現も多数、含まれています。

ネット上のテキスト情報で病理について勉強するのは本来、難しいと思いますが、
消化管病理についての理解を深める一助となれば幸いです。

*個別の症例についての話ではなく、病理学的な内容です。
 消化管疾患に悩んでらっしゃる方もこちらをご覧になると思いますが、
 一個人の疾病にあてはめて考えるのには、適切な情報ではない可能性があります。
 個人の疾病は個性の数だけ千差万別、何でもあり得ることをご理解の上、
 もし読まれるとしても、注意深く、お読みくださいね。
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第10回沖縄消化管臨床病理研究会メモ 2016年3月11日

特別講演:鬼島宏先生(弘前大学)
「臨床画像に反映される消化器癌の形態学的特徴
 ~胃潰瘍と胃癌の話を主体に~」

上部消化管臨床の変遷(トレンド?)
1980年:H.pylori関連疾患
2000年~ 非H.pylori関連疾患(GERD,NSAID潰瘍)

消化性潰瘍:
崎田・三輪分類(1961年胃透視画像)
村上分類(1957年、潰瘍の深さによる分類)

潰瘍辺縁部のUlⅢs、UlⅣsでは粘膜と筋層(固有筋層)がくっつく

胃潰瘍の形成から治癒へ。
Ul-Ⅰ,Ul-Ⅱの場合は粘膜下層に線維化。
Ul-Ⅲ,Ul-Ⅳの線維化は固有筋層までなので線維化持続し、
筋層の断裂と粘膜筋板との癒合が発生する。

Askanazyの4層構造:滲出層、類線維素壊死層、肉芽組織層、瘢痕層
4層構造があるのは「穿孔する前から潰瘍があった」という証拠になる。
修復課程は縦横、両方の構造である。

慢性消化性胃潰瘍についても同様。(出血性潰瘍の手術例)
縦横に(水平方向・平行方向に)4層があるか?再生上皮があるか?
前後壁への広がりなどから消化性胃潰瘍の再燃性を評価する。

西巻正先生の学位論文 1983
瘢痕線維化でわかる、胃潰瘍の時間軸
F1 活動性線維芽細胞:疎な膠原繊維 ~1ヶ月
F2 中間相(種々の細胞): 1ヶ月~1年
F3 非活動性線維芽細胞: 1年~(年単位の古い潰瘍)
時間軸で見る胃壁。

胃癌の発生と進展
・分化型癌(既存腺管の置換):腸上皮化生が背景、早くから全層置換。
・未分化型癌(粘膜固有層内):腺の萎縮を背景に、腺管の間に。

臨床画像と病理像は、観察法の違いと翻訳。
内視鏡観察と病理標本=観察軸(90度)の違い。
NBIの便利なところ:血管構造が見える、など。

幽門腺粘膜と胃底腺粘膜の違い。
胃底腺領域は胃底腺部が厚い(被覆上皮:胃底腺=1:3~4)
幽門腺領域は薄い(被覆上皮:幽門腺=1:1)
なので、胃底腺領域よりも、幽門腺領域の方が粘膜固有層が薄い。

胃粘膜の腸上皮化生≒萎縮
「萎縮性胃炎」には腸上皮化生がある。
胃底腺粘膜(胃固有腺の上部)が消失したものが腸上皮化生。
粘膜萎縮→増殖帯が相対的に下方へ移動。
胃小区間で起こることが多い。

胃癌の組織型
一般型の分化型癌細胞:サイコロに譬えられる
(積み重ねられる=腺構造を形成できる)
未分化型癌細胞:ビー玉に譬えられる
(コロコロ転がって腺にならない、浸潤していく)

分化型癌(=管状腺癌)の多くは腸上皮化生、粘膜全層置換。
なので通常、表層にヘリコバクターピロリ(HP)はいない。

未分化型癌(=低分化型管状腺癌、印環細胞癌)は萎縮のない
ところから始まるため、表層にHPがいる。
固有粘膜萎縮、増殖帯付近に出現する。

まとめ。
分化型胃癌:腸上皮化生より発生し、初期より粘膜全層を置換する。
未分化型胃癌(印環細胞癌):固有粘膜萎縮によって発生し、増殖帯付近にみられる。

「サイコロは積み重ねられるけど、ビー玉は積み重ねられない」ので、
肉眼的な隆起型になるのは分化型のみ。

分化型癌(結合性が強い)サイコロを積み重ねるが如し。(上方発育)
未分化型癌(結合性が弱い)ビー玉が転がるが如し。(側方伸展)

びらん形成は、癌細胞増殖でも病変は陥凹するため。


癌細胞の粘膜下浸潤について。

分化型腺癌は結合性が強いため、スクラムで静脈壁を侵襲しやすい。
(静脈侵襲から肝転移)

未分化型腺癌は結合性が弱いため、散乱式にリンパ管侵襲・播種をきたしやすい。

腫瘍塊を作ったものがBorrman分類;1型2型が分化型、3型4型が未分化型

大腸癌は9割以上が分化型腺癌(→静脈侵襲、肝転移が多い)
胃の半数は未分化型癌。
(→初期から陥凹性病変が多く、腹膜播種、リンパ行性転移)

2型か3型か、というを鑑別するには、周堤の断面をみる。
(オーバーハング<90度)

分化型腺癌は隆起、未分化型腺癌は陥凹
分化型腺癌は褐色調(発赤調=腺管および血管の増加)
未分化型腺癌は正常色調~退色調(間質の細胞数増加)
:細胞成分が多いと肉眼的に白く見えるらしい

分化型腺癌はⅡa様周堤を形成する、
未分化型腺癌は退色調・無構造・Ⅱa様周堤を欠く。(Ⅱb局面)

粘膜内病変の中央部に陥凹があればSM浸潤を疑う。

中分化型腺癌「手繋ぎ型腺管」→血管網の相対的現象がある

粘膜内癌だと直接的に内視鏡像に反映される。

Ⅱb型は如何に形成されるか?→少量の癌細胞が表層上皮圧排する場合
中分化型腺癌(手繋ぎ型で粘膜中層):表面は非腫瘍性
少量の未分化型癌(びらん形成前)


潰瘍合併胃癌の特性

進行胃癌 vs 潰瘍合併早期胃癌

潰瘍合併早期胃癌(M癌)Ul-Ⅳs(筋層の断裂、線維化F3)
胃壁硬化・陥凹=潰瘍
早期胃がんで、Ul-Ⅳが合併したもの。

潰瘍合併胃癌はどのようにして発生するか?

Ⅱb型発癌から潰瘍形成(陥凹)
粘膜下層浸潤時にはリンパ組織が対応。
浸潤部が潰瘍によってマスクされてしまう。
島状再生上皮が潰瘍間にみられる。

粘膜内癌は消化性潰瘍(Ul-Ⅳs)合併の記載が必要。


More advanced

気になる組織型
1)Carcinoma with lymphoid stromaリンパ球浸潤を伴う癌
EBウイルスのB-cellへの感染によって起こる。
悪性リンパ腫(Hodgkin,Burkitt)、鼻咽頭癌。

2)Invasive micropapillary carcinoma浸潤性微小乳頭癌
通常の腺癌が小胞巣構造を呈し、間質に裂隙が存在。
脈管(リンパ管)侵襲が高頻度。
Fibrovascular coreがない。
生検にはなかなか出ない、が出たら更に悪性度が高い。

消化器癌の前癌病変について。
胃は、de novo癌。 de novo(初めから、新たに)
胃の腺腫内癌は否定的。
大腸とは異なる?

培養細胞で再現できない、悪性の程度。
膵癌でも、胃癌でも、大腸癌でも、培養細胞レベルでの悪性度はあまり差がない。
ということは組織特性、臓器特性による悪性度の差なのか。
管腔臓器であれば、管腔壁の厚み(=粘膜、筋層)による悪性度の差があり得る。

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メモは以上です。

なお、「沖縄消化管臨床病理研究会」は今回、第10回で終了です。

これまで10回の開催について、関係された方々に厚くお礼申し上げます。

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2014年3月19日 (水)

平成26年度診療報酬改定、病理の部分(アンド愚痴)

平成26年度診療報酬改定の詳細が発表されました。
厚生労働省のHPではこちらになります。(リンク先はpdfです。7.283kbです。重いです。)

病理・細胞診に関しては今回は説明資料の中では1ページだけです。
そのページ(全体版の126ページ)だけを、貼らせていただきます。

H26


病理単体部分での大筋の変更はないようです。
免染で1600点加算可能な疾患が増えた(肺悪性腫瘍と悪性黒色腫)ことと、液状化検体細胞診加算が初回からとれるようになった(でも85点が18点に引き下げられた)というのが改定事項です。


☆      ☆      ☆

あとはお暇な方のみ、おつきあいください、という専門的な細かい話(愚痴?)です。

今回の改訂では、病理の細かい部分よりも、前立腺針生検や乳腺腫瘍摘出(5cm未満)、結腸ポリペク、子宮頚部切除などが「短期滞在手術基本料3(全診療報酬点数が包括)」になった方が、病院としての影響は大きいのかな、などと思いました。(上記リンク先のp27-29参照。)
これは病院ごとにものすごく事情が異なると思いますが、これらの件数が多い病院は、現状と4月以降との比較をする必要があると思います。たとえば、2泊3日ポリペク入院のパスがあるのなら、1泊2日に短縮できるならした方がいいのかも、とかいう話です。

で、病理側の自律的な話としては、この点数でどこまでやるのが「良心的か」という話になってくるのかな…とか。

どーせ包括だから病理診断をしない(病理に出しても出さなくても診療報酬は同じだから)というのは、論外です。
こういう病院が出たら、厳しくペナルティを課して欲しいと思います。
手術で採取されたすべての検体は病理診断されることが原則(もちろん例外はあります)と私は思います。

でも、検査数が過度に多いのも、問題なんです。
以下はその愚痴となります。

一度の入院、一人の患者さんで、24本の前立腺生検とか、30か所の大腸ポリペクとか、病理に出されても(この数字は誇張です、私自身は24本とか30か所とか診てませんよ、念のため)、もしすべてに癌があったら全部に細かく病理診断を記載して、切除断端のどこから何ミリかを計測して(これって自動計測じゃないですよ?私は顕微鏡とスライドガラスの間にプラスチックものさし挟んで1mmとか500μmとかって目算で計測してます)というのは、診断する側としては、一例一例に時間がかかってかかってたまらないです。

採取する臨床医には「ちゃんとねらって生検してください、スクリーニングを病理に丸投げしないでください、病理医には全例の厳密なスクリーニングに対応できるマンパワーないです」ってお願いしたくなります。

正確な診断、精確な診断、というのを何か、はき違えてないかな…と。
医療の質の向上を求めておられるつもりかもしれませんが、そこまで、できないんで…。

そもそも、癌であるか否かの判定にすら、むっちゃ悩むんですよ。
その上に、どこまで病理組織の細かい細かい項目を見ていくのが病理医の義務となっていくのか。
たとえば複数の癌がある場合、inicial diagnosisでは代表的な2箇所についてだけ記載し、それ以上の細かい診断が必要が場合は臨床側の求めに応じて追加報告で対応する、とかじゃダメなのかな…と思ったりします。
こういうのは取扱い規約とかガイドライン的な話になりますけどね。

すべての病理診断が、すべての患者さんを対象とした人体疾病研究、という訳じゃないんですから。
病理診断は、採取される患者さんの正確な病態把握が、第一の目的です。

特定の症例についてのみ、特に細かい(特定の)病理情報を集めたい、というのなら話は別なんです。
ちゃんとそれなりの手続きを経て(関係者の同意と納得も得て)、やればいいと思います。


日本の病理診断医の多くは「一般病理医」です。
国内で数十人しかいないような、特定臓器を専門とする専門的病理診断医と同等の診断水準を、国内全ての病理検体について、またすべての病理診断医に求めるのは、どう考えても無理があると思うんです。
ですけれど、現状ではその水準を求められる場面が多すぎて、病理診断医が疲弊する原因となっています。

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2012年4月 1日 (日)

今後の私個人の病理解剖についてのスタンス

4月1日の記事ですが、エイプリルフールではなく、至って真剣、マジメな内容です。

病院の常勤病理医でなくなったのを機会に、今後の私個人の、病理解剖についてのスタンスをこちらで明確にしておきたいと思います。


 今後、私は、後進(死体解剖資格取得予定者、病理専門医資格取得予定者)の指導を同時にできない状態では、病理解剖を、実施しません。


上記の宣言に至った背景を、解説しておきます。

これまで私は「一人病理医」として多くの病理解剖を「一人で」実施してきました。

しかし、日本国内の病理解剖数は減少の一途をたどっています。
このままでは、病理解剖執刀の手技、病理解剖技術そのものが継承されなくなる、という危機感を私は抱いています。

解剖数が多かった昔とは異なり、一つ一つの病理解剖が病理解剖技術継承の貴重な機会となっているのです。

そのため、これまでの反省も込めて上記のスタンスを今後はとることを決意しました。


* TPOにより例外を設けない訳ではありません。これを原則としたい、というつもりでの明言です。

* 現在の医療における病理解剖の意義については、こちらのサイトと私はほぼ同意見です。

* 私は病理専門医であり、死体解剖資格を有しておりますが、資格を取得して以来、法医解剖を実施した経験はなく、今後もお断りいたします。専門外である、というのが一番の理由です。

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2012年3月 6日 (火)

平成24年度診療報酬改定、病理の部分

平成24年度診療報酬改定の詳細が発表されました。
病理に関する部分の説明です。厚生労働省のHPから、医科の説明資料の病理関連3ページをこちらに貼らせていただきます。
(3月31日追記:分割版だとこちらの最後3ページです。)

病理診断管理加算の新設、保険医療機関間において連携して病理診断を行った場合も病理診断料と病理診断管理加算が算定できるようになったこと、液状化検体細胞診加算の新設、が主な改定事項です。

1


2


3


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2011年7月15日 (金)

病理医不足

病理医不足についてデータがなかったっけな~、と探して、一つあったのを思い出したのでこちらに貼っておきます。

思い出した、というくらいですから、ちょっと古いデータです。
かつてenodon先生に教えていただいたもので、2008年12月3日発表。
日本医師会の「医師確保のための実態調査」の30ページ目になります。
(リンク先はpdfです、ご注意くださいね。)

ざっくり言うと日本医師会が全国47都道府県に呼びかけてやった調査の結果なんですが、
30ページ目のグラフをここに転載させていたきます。
1

診療科別、最低必要医師数の倍率、というグラフですよ。
どれだけ病理診断科の医師が足りないか、わかりますか?

でもこの資料、病理医の視点で読み込んでいくと、こんなことが解ります。

病院長に対するアンケートによる「病院医師不足感」(p27)の中では病理は下から2番目(12番目)。

病理診断医は不足していると病院長に認識されていない・・・。
どうしたらいいんでしょうね。

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2011年5月24日 (火)

皮膚の蛍光染色

久しぶりに皮膚の蛍光染色がありまして、調べたことをココにも転記しときます。
あくまでも当院での実際、ってだけの話です。
駆け出しの病理医さんとかの、参考になるといいのですが。
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用いる抗体:腎生検の蛍光染色と同様
IgA, IgG, IgM, C1q, C3, C4, Fib

どういう疾患で、何がどこに染まるか?

・天疱瘡、類天疱瘡:IgG(表皮細胞)

・SLE:IgM, IgG, etc.

・HSP:IgA(血管壁、真皮)

・Urticarial vasculitis:IgG(血管壁),C3

・Lichen planus:Fib, IgM, C3
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なお、蛍光所見だけでは診断しない、のはもちろんです。

久しぶりの更新なのに、実に専門的な話だけで、失礼しました。
とりいそぎ。

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2011年3月30日 (水)

第100回日本病理学会開催決定

4月28日から横浜で開催が予定されていた日本病理学会が規模を縮小して開催することが決定されたそうです。節電のため、会期中の学会日程終了時間が早まる予定だそうです。

震災の影響が大きい時期でもあり、日本内科学会総会をはじめとする数多くの医学会が延期や中止となるなか、病理学会はどうなるんだろう、というのが私のような市井の病理医の関心事でした。

会場や電力の関係でフルに開催するのは無理だとしても、できれば中止や延期ではなく、規模を縮小してでも開いて欲しいなぁ、と思っていたので、ちょっと、ほっとしました。
学会に演題すら出していない、ただ参加するだけの、怠け者の学会員の私なんですけどね。

今回の病理学会は、第100回記念ということで各種行事も予定されていましたが、それもいろいろ変更されると聞いています。

その一つとして、病理学会会員&関係者によるアマチュア管弦楽団のコンサートが予定されており、私はメンバーの一人として(かなり練習不足ながらも)出演させていただく準備をしていたのですが、残念ながらコンサートは中止だそうです。これは仕方ないかな、と思っています。

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2011年1月31日 (月)

誤診をしてしまった時

誤診はゼロにできない」という、しばらく前の記事に、今朝、コメントを一つ頂戴しました。
名前欄などに記入がないコメントで、タイムスタンプは2011/01/31 5:38となっています。

「誤診を 素直にあやまりましたか? 訴訟が怖くて 逃げの姿勢でしたか?」

という質問形式での、コメントです。こちらで質問に答えさせていただきます。

どの誤診のことをおっしゃっているのかがコメントの文章だけでは解りにくいのですが、上記の本文中に書いている私自身の「生涯忘れられない誤診」についてであれば、誤診が判明した時点で臨床医にすぐに連絡しています。

それから「訴訟が怖くて逃げの姿勢でしたか?」という表現にはなんだか意地悪な印象を受けます。私の考えすぎだったら申し訳ありませんが。
確かに私は怖がりの臆病者ですので、訴訟を起こされること、は怖い、です。
もし訴えられたらどうしよう、と思います。
でも、そんな私であっても、誤診イコール訴訟、と即座に連想する訳ではありません。
質問された方にとっては、意外なことかもしれませんが。

実際問題として「大変だ、誤診をしてしまった」と気づいたら、次には「患者さんへの影響は?」というのが真っ先に思い浮かびます。
私がしてしまった誤診による悪影響から、患者さんを守らなくては、という思いが、その次の行動を起こす原動力となります。
まずは患者さんのことが大事、です。多くの医師がそうではないかと思います。

病理医の立場では、まず臨床医(主治医)に連絡し、診断が間違っていたことをストレートに告げて、お詫びします。診断の訂正が必要かどうかを尋ね、必要ならば追加報告の形で、病理診断報告書を再発行します。
間違っていた診断を破棄するのではなく、あくまでも追加報告ですので、誤った診断名が書かれた病理診断報告書も残ります。証拠隠滅はできません。私自身のやり方がこうだというだけですので、違うやり方をしている病理医もいるとは思います。

誤診など、世の中にない方がいいに決まっています。
でも、「これまで私は誤診したことがありません」と言えるのは診断経験の乏しい医師か、自分自身の誤診に気づいてすらいない医師でしょう。
「これから一生わたしは一度たりとも誤診しません」と宣言する医師がもしいたとしたら、その医師を私は信用しません。その医師の気迫は評価するかもしれませんが。

ただし。
わたし自身は訴訟に至った誤診を経験していません。
自分の誤診が主因の訴訟を経験していれば、トラウマとなってフラッシュバックを起こすのかもしれません。そうなった時にも自分が職業人として現在同様の姿勢を堅持できるのだろうか、と考えたりもします。答えは出ません。

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2010年9月 9日 (木)

Group 4っていう病理診断の例

胃生検のグループ分類の記事(専門家向け)を、前回、書きました。
今回は一般向けに、もっともっと具体的な例を書いてみますね。
(以下はもちろんフィクションです、事実そのままではありません。)
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30代のある患者さんが、大腸内視鏡検査を受けました。
内視鏡医は「大腸癌の疑い」として、生検(病理検査)を出しました。

5cmくらいの大きなかたまりが、大腸の中にある。
で、その表面を4箇所、かじって病理に出した、と伝票には書いてあります。

顕微鏡をのぞきながら、私は、大きく息をつきました。
これが、5cm大の腫瘍の一部なのか。
私の顕微鏡の上のガラスには、2mm大の組織が4個、載っているだけです。
(まぁ、生検ってそういうものなんですけどね。サンプリングにすぎない。
 全体像を反映しているとは限らない、情報が全部あるわけではない。)

そこには、良性腫瘍(大腸腺腫)の特徴はあっても、悪性腫瘍(大腸癌)としての特徴がある細胞はみられません。
個々の細胞の「顔」(細胞異型、といいます)はぜんぜん悪くない。
だけど、細胞の並び方、組織構築(構造異型)はちょっと気になる。
4個中、1個だけなんだけど、なんだか組織がごちゃごちゃしてて、密度が高く、先細りになるような並び方で、とんがってる印象。
癌と断定できるほどではないけど、あやしい。

うーん。
このガラス標本だけみたら、Group 3(良性腫瘍、大腸管状絨毛腺腫)かなぁ、って思う。
腺腫の一部があやしい顔つきになってきてるだけ?
だけど、内視鏡医は、癌の疑い、って書いてる。大きさも5cmもあるらしいし。
じゃあ逆に、大腸癌の一部をサンプリングしてきたら、こういう標本になることがありえるか?って考えてみよう。
・・・あるかも。
だって私が見てるのは腫瘍の、ものすごく表面だけ。
大腸癌の多くは大腸腺腫の一部から発生する。
大きな腺腫ほど、一部に癌が既にある可能性が高い。
だから、今回採取されてきた標本の中に、明らかな癌がないだけで、実はどこかに癌が隠れている可能性も十分にある。
見えてないものを診断することはできない。
けれど、大きさ5cm、4個中1個といえどもあやしい顔の組織だったら、Group 4(腫瘍と判定される病変のうち、癌が疑われる病変)でいいんじゃないか。
30代の患者さんの身体の中にこの病変があるんだったら、手術して全体をきちんと取ってもらった方がいいだろう。
ここでGroup 3って私が診断しちゃうと、臨床医が手術適応に悩むことになるかもしれないから、ちょっとでも手術を後押しするということで、Group 4をつけよう。

そう考えて、私はGroup 4, see descriptionと診断し、病理診断報告書を発行しました。
同時に主治医に電話して「Group 4です、絶対に癌とは言い切れないけど、癌の可能性高いですから、手術した方がいいと思うんです」と私の主観的な印象も伝えました。
主治医(内科医)は外科に相談する、と言いました。

数日後、相談された外科医が病理検査室にやってきました。
「Group 4ですよね。ほとんど癌、っていうことでいいのでしょうか?」
「まぁ、癌と断定できないからGroup 4ってつけたんですけどね。まずは標本みましょう」
標本を出して、一緒に顕微鏡をのぞき、上に書いたような私の考えを伝えました。

外科医は、患者さんのことを話してくれました。
30代で元気に普通に社会生活を送っている患者さんで、病理診断結果は癌の疑い、つまり癌と確定された訳じゃないけど、ということも含めつつ、手術の説明をし、どうしますか、と尋ねたら、手術したい、と言ったそうです。

「じゃあ、いいじゃないですか。先生が執刀されるんですよね?」って私が言ったら、外科医はまだ悩んでいる様子です。
「そうなんですけれど、患者さんに説明したあと、僕が、いろいろと考えてしまって。
癌でない可能性があるものを、手術して取って、それがやっぱり癌じゃなかった、ということになったら、って考えると、もう少しなんとかできないか、と・・・」

うーん、確かに。
そういうことも十分にあり得る。
癌であるのか、癌でないのか、っていうのを(限りがあるとはいえ)もっと追求しよう。
内視鏡検査では腫瘍の表面しかとれないから、腫瘍の中の方まではわかりにくいし、表面は腺腫だけど深部では癌になってる、という腫瘍はぜんぜん珍しくない。

腫瘍の深達度は、内視鏡、CTとかでは、どういう風にみてるんですか?内視鏡医の意見は癌ってことだったよね?放射線の先生のところに相談に行きましたか?

・・・ということで、放射線診断医のところに二人で行きました。
画像ネットワークのソフトを開き、患者さんのCTをみてもらいました。
「癌かそうでないか、ということですが・・・この大きさ、それから周辺組織の変形の度合い、血管の巻き込み方とかをみると、悪性である可能性は十分に高いでしょう。手術した結果の病理検査で、癌じゃないってことがあるかな・・・ほとんどないんじゃないかな・・・。
そもそも、もしこの腫瘍が僕の身体の中にあったとしたら、僕は、手術してもらいたい。」
「わかりました。手術します。」外科医の迷いもふっきれたようです。

その後、手術された大腸組織が病理に出されてきました。
5cmの腫瘍のうち、半分は癌、半分は腺腫、というものでした。
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一人の患者さんが癌と診断され、手術になる。
その裏側ではこんな話がされているんです。
医療チーム、って感じがしますか?
こんな感じで、病理医の私は、医療におけるチームの一人として仕事をしています。

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2010年8月19日 (木)

胃生検Group分類改訂への対応

専門的な内容となってしまうので一般の方には意味不明かもしれません、ご容赦ください。

胃生検のグループ分類をどう運用するか、というのを(3月の改訂以来)ずっと悩み中だったのですが、ようやく暫定的とはいえ決着がつきました。

なお、以下は、あくまでも私の勤務先限定の話で、これが絶対正しいという訳ではありません。僻地の病院でこういう運用をしてるところもある、という情報提供のつもりです。(参考までに、委託検査会社ではこういう 扱いがまぁ普通、といった感じでしょうか。)

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2010年3月に胃癌取扱い規約第14版が発行され、Group分類が改訂されました(文末参照)。当院でも新規約の発行を受け、胃生検の病理組織診断を以下のように変更します。

 

①数字の表記をアラビア数字に変更する

これまでGroup Ⅲ、Group V等、ローマ数字で表記してきた数字を、新規約に従い今後はGroup 3、 Group 5とアラビア数字で表記します。

(大腸生検のGroup分類と同様の表記となります。)

 

②診断名の記載、Group分類の併記

従来、病理診断としてGroup分類のみを記載することもありましたが、今後は原則として病理組織学的診断名を記載し、Group分類を付記する形をとります。 例)Chronic gastritis, Group 1

 

Group 2, Group Xの扱いについて

今回の改訂で大きく変更されたのはGroup 2です(文末参照)。再生性・反応性異型上皮から、悪性腫瘍の可能性を否定できない病変までがGroup 2に含まれることとなりました。Group 3よりも悪性度の高い病変がGroup 2と分類されることもありうるため、混乱が予測されます。

当院においては当面の間、混乱を避けるため、Group 2に該当する病変については組織学的診断名のみとし、Group分類を付記しません。

 

例)Dx: Atypical epithelium, need to re-biopsy

 所見:異型を示す上皮を認めます。良悪の確定が困難な病変ですので、早急な再検をお願いします。

 

また、新規約では不適材料についてGroup Xと判定することとされていますが、誤解を防ぐために従来通り病理組織診断としてinsufficient materialと記載し、Group分類(Group X)を用いない予定です。

Group1、Group3、Group4、Group5については規約に即した形で用います。

 

 

なお、従来はGroup 3以上を臨床医への電話連絡の対象としておりましたが、規約の変更に伴い、Group 2相当病変についても病理医の判断にて電話連絡いたします。Group 4、Group 5については従来通り、原則全例を電話連絡いたします。

 

以上、何か疑問等ありましたら、どうぞお気軽に病理医までお問い合わせください。

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参考

 

Group分類(胃癌取扱い規約第13版,1999)

 

Group I:正常組織、異型を示さない良性(非腫瘍性)病変

Group II:異型を示すが、良性(非腫瘍性)と判定される病変

Group III:良性(非腫瘍性)と悪性の境界領域病変

Group IV:癌が強く疑われる病変

Group V:癌

 

 

Group分類(胃癌取扱い規約第14版,2010)

 

Group X:生検組織診断ができない不適材料

Group 1:正常組織および非腫瘍性病変

Group 2:腫瘍性(腺腫または癌)か非腫瘍性か判断の困難な病変

Group 3:腺腫

Group 4:腫瘍と判定される病変のうち、癌が疑われる病変

Group 5:癌


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