« 2015年6月 | トップページ | 2016年4月 »

2016年3月16日 (水)

第10回沖縄消化管臨床病理研究会のメモ

久しぶりの更新は、病理診断の専門的な内容です。

消化管病理標本は、国内では病理組織検体の中で最も数が多いのではないかと思います。
私は病院育ちの病理専門医で、消化管検体には頻繁に遭遇するため、ほとんど個人の経験の積み重ね(=on the job training)で消化器生検標本を診断しているのですが、たまに勉強会に出ると感動します。
専門家中の専門家って、本当にすごい、と思います。
そんな勉強会、研究会に出席してきました。

先週、開催された第10回沖縄消化管臨床病理研究会の講演メモを貼っておきます。
講師名を(勝手に…すみません鬼島先生!)記載していますが、文責はすべて私にあります。
記録内容として誤っていましたら、メモをとった私のせいだと思われます。
あくまでも私の理解のためのメモなので、講師が使っていない表現も多数、含まれています。

ネット上のテキスト情報で病理について勉強するのは本来、難しいと思いますが、
消化管病理についての理解を深める一助となれば幸いです。

*個別の症例についての話ではなく、病理学的な内容です。
 消化管疾患に悩んでらっしゃる方もこちらをご覧になると思いますが、
 一個人の疾病にあてはめて考えるのには、適切な情報ではない可能性があります。
 個人の疾病は個性の数だけ千差万別、何でもあり得ることをご理解の上、
 もし読まれるとしても、注意深く、お読みくださいね。
---------------------------------------------------
第10回沖縄消化管臨床病理研究会メモ 2016年3月11日

特別講演:鬼島宏先生(弘前大学)
「臨床画像に反映される消化器癌の形態学的特徴
 ~胃潰瘍と胃癌の話を主体に~」

上部消化管臨床の変遷(トレンド?)
1980年:H.pylori関連疾患
2000年~ 非H.pylori関連疾患(GERD,NSAID潰瘍)

消化性潰瘍:
崎田・三輪分類(1961年胃透視画像)
村上分類(1957年、潰瘍の深さによる分類)

潰瘍辺縁部のUlⅢs、UlⅣsでは粘膜と筋層(固有筋層)がくっつく

胃潰瘍の形成から治癒へ。
Ul-Ⅰ,Ul-Ⅱの場合は粘膜下層に線維化。
Ul-Ⅲ,Ul-Ⅳの線維化は固有筋層までなので線維化持続し、
筋層の断裂と粘膜筋板との癒合が発生する。

Askanazyの4層構造:滲出層、類線維素壊死層、肉芽組織層、瘢痕層
4層構造があるのは「穿孔する前から潰瘍があった」という証拠になる。
修復課程は縦横、両方の構造である。

慢性消化性胃潰瘍についても同様。(出血性潰瘍の手術例)
縦横に(水平方向・平行方向に)4層があるか?再生上皮があるか?
前後壁への広がりなどから消化性胃潰瘍の再燃性を評価する。

西巻正先生の学位論文 1983
瘢痕線維化でわかる、胃潰瘍の時間軸
F1 活動性線維芽細胞:疎な膠原繊維 ~1ヶ月
F2 中間相(種々の細胞): 1ヶ月~1年
F3 非活動性線維芽細胞: 1年~(年単位の古い潰瘍)
時間軸で見る胃壁。

胃癌の発生と進展
・分化型癌(既存腺管の置換):腸上皮化生が背景、早くから全層置換。
・未分化型癌(粘膜固有層内):腺の萎縮を背景に、腺管の間に。

臨床画像と病理像は、観察法の違いと翻訳。
内視鏡観察と病理標本=観察軸(90度)の違い。
NBIの便利なところ:血管構造が見える、など。

幽門腺粘膜と胃底腺粘膜の違い。
胃底腺領域は胃底腺部が厚い(被覆上皮:胃底腺=1:3~4)
幽門腺領域は薄い(被覆上皮:幽門腺=1:1)
なので、胃底腺領域よりも、幽門腺領域の方が粘膜固有層が薄い。

胃粘膜の腸上皮化生≒萎縮
「萎縮性胃炎」には腸上皮化生がある。
胃底腺粘膜(胃固有腺の上部)が消失したものが腸上皮化生。
粘膜萎縮→増殖帯が相対的に下方へ移動。
胃小区間で起こることが多い。

胃癌の組織型
一般型の分化型癌細胞:サイコロに譬えられる
(積み重ねられる=腺構造を形成できる)
未分化型癌細胞:ビー玉に譬えられる
(コロコロ転がって腺にならない、浸潤していく)

分化型癌(=管状腺癌)の多くは腸上皮化生、粘膜全層置換。
なので通常、表層にヘリコバクターピロリ(HP)はいない。

未分化型癌(=低分化型管状腺癌、印環細胞癌)は萎縮のない
ところから始まるため、表層にHPがいる。
固有粘膜萎縮、増殖帯付近に出現する。

まとめ。
分化型胃癌:腸上皮化生より発生し、初期より粘膜全層を置換する。
未分化型胃癌(印環細胞癌):固有粘膜萎縮によって発生し、増殖帯付近にみられる。

「サイコロは積み重ねられるけど、ビー玉は積み重ねられない」ので、
肉眼的な隆起型になるのは分化型のみ。

分化型癌(結合性が強い)サイコロを積み重ねるが如し。(上方発育)
未分化型癌(結合性が弱い)ビー玉が転がるが如し。(側方伸展)

びらん形成は、癌細胞増殖でも病変は陥凹するため。


癌細胞の粘膜下浸潤について。

分化型腺癌は結合性が強いため、スクラムで静脈壁を侵襲しやすい。
(静脈侵襲から肝転移)

未分化型腺癌は結合性が弱いため、散乱式にリンパ管侵襲・播種をきたしやすい。

腫瘍塊を作ったものがBorrman分類;1型2型が分化型、3型4型が未分化型

大腸癌は9割以上が分化型腺癌(→静脈侵襲、肝転移が多い)
胃の半数は未分化型癌。
(→初期から陥凹性病変が多く、腹膜播種、リンパ行性転移)

2型か3型か、というを鑑別するには、周堤の断面をみる。
(オーバーハング<90度)

分化型腺癌は隆起、未分化型腺癌は陥凹
分化型腺癌は褐色調(発赤調=腺管および血管の増加)
未分化型腺癌は正常色調~退色調(間質の細胞数増加)
:細胞成分が多いと肉眼的に白く見えるらしい

分化型腺癌はⅡa様周堤を形成する、
未分化型腺癌は退色調・無構造・Ⅱa様周堤を欠く。(Ⅱb局面)

粘膜内病変の中央部に陥凹があればSM浸潤を疑う。

中分化型腺癌「手繋ぎ型腺管」→血管網の相対的現象がある

粘膜内癌だと直接的に内視鏡像に反映される。

Ⅱb型は如何に形成されるか?→少量の癌細胞が表層上皮圧排する場合
中分化型腺癌(手繋ぎ型で粘膜中層):表面は非腫瘍性
少量の未分化型癌(びらん形成前)


潰瘍合併胃癌の特性

進行胃癌 vs 潰瘍合併早期胃癌

潰瘍合併早期胃癌(M癌)Ul-Ⅳs(筋層の断裂、線維化F3)
胃壁硬化・陥凹=潰瘍
早期胃がんで、Ul-Ⅳが合併したもの。

潰瘍合併胃癌はどのようにして発生するか?

Ⅱb型発癌から潰瘍形成(陥凹)
粘膜下層浸潤時にはリンパ組織が対応。
浸潤部が潰瘍によってマスクされてしまう。
島状再生上皮が潰瘍間にみられる。

粘膜内癌は消化性潰瘍(Ul-Ⅳs)合併の記載が必要。


More advanced

気になる組織型
1)Carcinoma with lymphoid stromaリンパ球浸潤を伴う癌
EBウイルスのB-cellへの感染によって起こる。
悪性リンパ腫(Hodgkin,Burkitt)、鼻咽頭癌。

2)Invasive micropapillary carcinoma浸潤性微小乳頭癌
通常の腺癌が小胞巣構造を呈し、間質に裂隙が存在。
脈管(リンパ管)侵襲が高頻度。
Fibrovascular coreがない。
生検にはなかなか出ない、が出たら更に悪性度が高い。

消化器癌の前癌病変について。
胃は、de novo癌。 de novo(初めから、新たに)
胃の腺腫内癌は否定的。
大腸とは異なる?

培養細胞で再現できない、悪性の程度。
膵癌でも、胃癌でも、大腸癌でも、培養細胞レベルでの悪性度はあまり差がない。
ということは組織特性、臓器特性による悪性度の差なのか。
管腔臓器であれば、管腔壁の厚み(=粘膜、筋層)による悪性度の差があり得る。

---------------------------------------------------
メモは以上です。

なお、「沖縄消化管臨床病理研究会」は今回、第10回で終了です。

これまで10回の開催について、関係された方々に厚くお礼申し上げます。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2015年6月 | トップページ | 2016年4月 »