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2015年6月 8日 (月)

飛行機の中で呼び出された経験談

飛行機の中で「お医者様はいらっしゃいませんか」という場面に立ち会ってしまった経験談を書いておきます。

注)ただの前世紀の経験談です。
 古すぎる話で記憶が確実でない部分もあります、ご容赦ください。
 医師の応召義務の話題ではありません。
 議論の材料にはしないでいただきたいです。

当時わたしは医学生、高学年でした。
アメリカ東海岸から日本へと飛ぶ、国際線(日本の航空会社)に乗っていました。
フライトの時間は、10時間程度だったと思います。

事情により一人旅だったのですが、たまたまお隣に話好きの方が乗っていて
旅は道連れ、とばかりに、わたしはお隣の女性といろいろと話していました。
その中で「医学生である」という話もしていました。

離陸して数時間後。
それまでわたしたちにサービスをしてくれていたキャビンアテンダントさんが、
わたしのところにやってきて、膝をかがめて、こんな風に話しかけてきたのです。

「すみません、お話を聞いてしまったのですが、医学部の学生さんなのですか。
実は機内で気分が悪いとおっしゃるお客様がいらっしゃるのです。
心配なので…少しだけでも、様子を見にきていただけないでしょうか。」

驚きました。そしてものすごく怖くなりました。
軽率に自分の情報を知らない人に明かしていたことを後悔しました。

医学生で医療行為はできないこと、そもそも全然自信がない!ということを必死で訴えました。
ですけれど、結局わたしは「気分が悪いお客様」のところに行きました。
そのキャビンアテンダントさんが気の毒で、彼女の頼みを断り切れなかったのです。

機内の医療品として、酸素と血圧計などを見せられたような記憶があります。
「気分が悪い」方は意識はあり話もできました。
本気で気分が悪そうでした。
が、わたしでは何もできないことは明らかでした。

チーフと思われるキャビンアテンダントは私に対して不審感をあらわにしてきました。
そう。
「何もできない」と言っている場合ではないのです。
できることはすべてするしかない。
この場合にわたしにできることが一つありました。

「お医者様を呼んでください」

と、わたしは言いました。
それが最善の手段だと思いました。
わたしは医学生にすぎないのですから。
日本語と英語でドクターコールがなされました。
「お医者様はいらっしゃいませんか」という、放送です。

アメリカ人らしき壮年男性の医師が名乗り出ました。
「酸素吸入、到着したら救急車。それ以外にすることはない」と英語で結論し、彼は自席に戻りました。

わたしも戻ろうとしました…が引きとめられました。
最初にわたしに声をかけてきたキャビンアテンダントさんです。
できれば近くの席にいて欲しい、と、とても心配そうな様子でわたしを返してくれませんでした。

元の席に一時的に戻り、お隣の席の女性に事情を説明して、わたしは席を変えました。
何もできないのに近くにいるのも変だと思い、「気分が悪い方」の血圧を測ることにしました。
聴診器で脈拍を聴きとるタイプの血圧計でした。
ですが、機内はうるさくて、脈がほとんど聞き取れませんでした。
成田空港まで、触診法で収縮期血圧だけを定期的に測定し、記録しました。
長い長い、オソロシイ旅になってしまいました。

成田に到着して、待っていた救急車が患者さんを乗せて出発し、
ようやく解放されたと思ったのですが、それで終わりではありませんでした。

最初に声をかけてきたキャビンアテンダントさんが、今度は、ペンと用紙を持ってきたのです。
そして、ここに住所と氏名、連絡先を書いて欲しい、と言われました。

この患者さんに何かあったら責任を問われるのだろうか、とわたしは恐ろしくなりました。

でも予約時点で氏名は既にバレています。
もう今さら逃げも隠れもできないだろう、と観念して、わたしは用紙に記入しました。
家に戻ってからも、いつ恐怖の連絡が届くだろうか、と内心では心配していました。

そうしたら、ある日、航空会社から定型外郵便物が届きました。
中には礼状とトラベルウォッチが入っていました。
そのための住所氏名だったんだな、とようやく納得しました。

これで、わたしの経験談はおしまいです。

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