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2010年9月 9日 (木)

Group 4っていう病理診断の例

胃生検のグループ分類の記事(専門家向け)を、前回、書きました。
今回は一般向けに、もっともっと具体的な例を書いてみますね。
(以下はもちろんフィクションです、事実そのままではありません。)
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30代のある患者さんが、大腸内視鏡検査を受けました。
内視鏡医は「大腸癌の疑い」として、生検(病理検査)を出しました。

5cmくらいの大きなかたまりが、大腸の中にある。
で、その表面を4箇所、かじって病理に出した、と伝票には書いてあります。

顕微鏡をのぞきながら、私は、大きく息をつきました。
これが、5cm大の腫瘍の一部なのか。
私の顕微鏡の上のガラスには、2mm大の組織が4個、載っているだけです。
(まぁ、生検ってそういうものなんですけどね。サンプリングにすぎない。
 全体像を反映しているとは限らない、情報が全部あるわけではない。)

そこには、良性腫瘍(大腸腺腫)の特徴はあっても、悪性腫瘍(大腸癌)としての特徴がある細胞はみられません。
個々の細胞の「顔」(細胞異型、といいます)はぜんぜん悪くない。
だけど、細胞の並び方、組織構築(構造異型)はちょっと気になる。
4個中、1個だけなんだけど、なんだか組織がごちゃごちゃしてて、密度が高く、先細りになるような並び方で、とんがってる印象。
癌と断定できるほどではないけど、あやしい。

うーん。
このガラス標本だけみたら、Group 3(良性腫瘍、大腸管状絨毛腺腫)かなぁ、って思う。
腺腫の一部があやしい顔つきになってきてるだけ?
だけど、内視鏡医は、癌の疑い、って書いてる。大きさも5cmもあるらしいし。
じゃあ逆に、大腸癌の一部をサンプリングしてきたら、こういう標本になることがありえるか?って考えてみよう。
・・・あるかも。
だって私が見てるのは腫瘍の、ものすごく表面だけ。
大腸癌の多くは大腸腺腫の一部から発生する。
大きな腺腫ほど、一部に癌が既にある可能性が高い。
だから、今回採取されてきた標本の中に、明らかな癌がないだけで、実はどこかに癌が隠れている可能性も十分にある。
見えてないものを診断することはできない。
けれど、大きさ5cm、4個中1個といえどもあやしい顔の組織だったら、Group 4(腫瘍と判定される病変のうち、癌が疑われる病変)でいいんじゃないか。
30代の患者さんの身体の中にこの病変があるんだったら、手術して全体をきちんと取ってもらった方がいいだろう。
ここでGroup 3って私が診断しちゃうと、臨床医が手術適応に悩むことになるかもしれないから、ちょっとでも手術を後押しするということで、Group 4をつけよう。

そう考えて、私はGroup 4, see descriptionと診断し、病理診断報告書を発行しました。
同時に主治医に電話して「Group 4です、絶対に癌とは言い切れないけど、癌の可能性高いですから、手術した方がいいと思うんです」と私の主観的な印象も伝えました。
主治医(内科医)は外科に相談する、と言いました。

数日後、相談された外科医が病理検査室にやってきました。
「Group 4ですよね。ほとんど癌、っていうことでいいのでしょうか?」
「まぁ、癌と断定できないからGroup 4ってつけたんですけどね。まずは標本みましょう」
標本を出して、一緒に顕微鏡をのぞき、上に書いたような私の考えを伝えました。

外科医は、患者さんのことを話してくれました。
30代で元気に普通に社会生活を送っている患者さんで、病理診断結果は癌の疑い、つまり癌と確定された訳じゃないけど、ということも含めつつ、手術の説明をし、どうしますか、と尋ねたら、手術したい、と言ったそうです。

「じゃあ、いいじゃないですか。先生が執刀されるんですよね?」って私が言ったら、外科医はまだ悩んでいる様子です。
「そうなんですけれど、患者さんに説明したあと、僕が、いろいろと考えてしまって。
癌でない可能性があるものを、手術して取って、それがやっぱり癌じゃなかった、ということになったら、って考えると、もう少しなんとかできないか、と・・・」

うーん、確かに。
そういうことも十分にあり得る。
癌であるのか、癌でないのか、っていうのを(限りがあるとはいえ)もっと追求しよう。
内視鏡検査では腫瘍の表面しかとれないから、腫瘍の中の方まではわかりにくいし、表面は腺腫だけど深部では癌になってる、という腫瘍はぜんぜん珍しくない。

腫瘍の深達度は、内視鏡、CTとかでは、どういう風にみてるんですか?内視鏡医の意見は癌ってことだったよね?放射線の先生のところに相談に行きましたか?

・・・ということで、放射線診断医のところに二人で行きました。
画像ネットワークのソフトを開き、患者さんのCTをみてもらいました。
「癌かそうでないか、ということですが・・・この大きさ、それから周辺組織の変形の度合い、血管の巻き込み方とかをみると、悪性である可能性は十分に高いでしょう。手術した結果の病理検査で、癌じゃないってことがあるかな・・・ほとんどないんじゃないかな・・・。
そもそも、もしこの腫瘍が僕の身体の中にあったとしたら、僕は、手術してもらいたい。」
「わかりました。手術します。」外科医の迷いもふっきれたようです。

その後、手術された大腸組織が病理に出されてきました。
5cmの腫瘍のうち、半分は癌、半分は腺腫、というものでした。
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一人の患者さんが癌と診断され、手術になる。
その裏側ではこんな話がされているんです。
医療チーム、って感じがしますか?
こんな感じで、病理医の私は、医療におけるチームの一人として仕事をしています。

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コメント

先生、こんばんは。
本日の先生の講義を聞いて、ぜひもっとお話を聞きたいと思ったのですが、教室では話しかけづらくて・・・コメントを書かせてもらいます。

私は、4年間の浪人を経て医学部に入学しました。これから先、女医になるにあたって、先生のお話がかなりためになると思いました。
本日は、多忙な中、貴重なお時間を割いて、講義をしてくださってありがとうございました。
私も絶対に出産して家庭を持ちたいと考えています。研修医の間に1年間産休をとる、または2年間の研修を終えてから1,2年目に出産するということを考えていました。しかし、本日の講義で、現場を離れるのは進めないとおっしゃっていたので、後者にしようかと考えたのですが・・・
きちんと進級して、国試に合格することが最優先なのですが、どうしてもそのことが気になって考えてしまいます。先生は、学生時代、このようなことを考えていましたか?
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以下、slummyによるお返事です。

コメントありがとうございました。勝手ながら個人情報を伏せた文章に直してコメントを公開させていただきます。
非公開にしておくのはもったいないような内容ですし、ぜひ、お返事もしておきたくて。

私も学生時代、そういうことをいろいろ考えてましたよ。卒業と同時に結婚したのは、20代のうちに子供を産みたかったから、っていうのもありますし。私は5人兄弟で育ち、子供がいっぱいいる家庭を私自身、作りたかったので、早く子供を産み始めたかったし、仕事も楽しくやりがいをもって一生懸命やりたい、という希望を持っていました。

結論から言うと「直面してみなければ、どうするのが最善か、というのはわからない」ということになるんだと思います。妊娠・出産は計画通りにいくとは限らないものですし、家庭生活も、もちろん仕事環境も、そうです。(ちなみに、私の初産は34歳、結婚後7年間は妊娠していません。どうしても妊娠しないようなら、養子をもらうことも本気で考えていました。不妊治療にはすごく抵抗感があって。)

ただ、分岐点に直面するタイミングは必ずありますので、そのときに、どっちを選ぶか、どうするか。そこで自分の本来の希望をねじまげないような方向で、選ぶことが大事なんだと思います。
そのためには日頃から、自分の本来の希望、これがないと私は幸せな気分にはなれない、というものは何なのか、をしっかり認識しておくことが必要なのかもしれません。

研修1年目当時に担当した、ある患者さんのことを書かせてください。60代の女性医師で、胆道系疾患で入院されていました。ご主人も医師で、総合病院のある科の部長。ご本人は・・・「わたしは検診医しかやってないの、それしかできないし」と投げやりな口調でおっしゃるのです。同級生と結婚して妊娠し、当時の風潮もあって仕事をあきらめて子育てに専念し、子育てが終わってからは検診の仕事しかなかった、と。
駆け出しで何もできない研修医だった当時の私は、その患者さんに本気で言いました。「検診医も社会に必要とされている、医師の資格がないとできない、立派な医師の仕事だと私は思います」と。そうしたら「あら、そう?そんなこと初めて言われたわ。検診しかできない医者なんて、医者としては恥ずかしいじゃない」という返事がかえってきました。しかも、研修医の私にはそんな風に自嘲的だったのに、看護師さんに対しては二言目には「わたしも医者よ!バカにしないでちょうだい!」という横柄な言動で接するような方でした。

自分で自分を貶めつつ、医師としてのプライドも抑えきれない、コンプレックスの塊のように思える高齢女性医師の姿が、私にはものすごくショックでした。申し訳ないけれど、私は将来、こんな風になりたくない。私は子供が大好きだし絶対、自分で子育てしたいと考えていたけれど、医師になるために費やした時間と努力すべてを子育てのために捨ててしまうようなことはきっとできない、医師としての年齢相応の成長も続けながら母としての人生も得られるような道を模索するしかない、と強く思いました。

4年も浪人して入った医学部です、医師としてのキャリアもぜひ大事にして、妊娠・出産もできるような道、しかも自分にできそうな方向を、いろいろ考えてみて、情報も集めてみてください。妊娠・出産の時期については「授かった時が産みどき」だと考えています。
他の人たちがどんな風にやっているのか、自分にできそうなことは何か、を知っておくことも重要ですし、一人で抱え込まずに周囲に助けてもらうことも大事です。
妊娠・出産・育児に関して言えば、必死で助けを求めれば、助けてくれる人が必ず、います。ただ、助けてもらいっぱなしというのでは良くなくて、困っているときに助けてもらったら、後で何らかの形で(必ずしもその人でなくても・・・)恩返ししよう、という気持ちは忘れてはいけないと思いますし、機会を伺って、いつかは必ず助ける側に回る、という気持ちで助けてもらうべきでしょう。

長いお返事で、失礼いたしました。

投稿: slummy | 2010年9月22日 (水) 21時54分

生検診断について大変勉強になりました。ただし、胃生検のグループ2については混乱しています。当院ではadenoma high gradeはグループ3に分類されており、異型度は高いがあくまで良性腫瘍の範疇です。グループ4はほとんど癌と考えています。グループ3のhigh gradeは患者の基礎疾患や年齢、病変の大きさや形態などを考えて原則的にはESDをします。low gradeは経過観察です。しかしグループ2で病理医より”癌も否定できずESDを希望する”というコメントがあり(とくに診断に自信がある病理医に多いコメント)、ESDにならざるを得ないことがあります。グループ2がグループ3のhigh gradeとグループ4を混ぜたほうな対応となってきています。グループ分類は純粋な病理診断だけでなく、治療方針に関する病理医の考えも反映しているため(先生の実例のとおり)、臨床側からはかえって判断が難しくなってきます。先生の例ではグループ3(ただし、ごく一部に異型度が高く癌も否定できない。大きさから考えると癌も疑われるため、可能なら他部位からの生検か治療を希望する)と記載するのはどうでしょうか。あるいはグループ分類は廃止して、純粋に病理組織診断名を記載した方がわかりやすいと思いますが、いかがでしょうか?

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こんにちは、slummyです。
「素人」さんとのことですが、記述された文章内容から玄人・・・といいますか、消化器内科の臨床現場に携わっておられる先生、との印象を受けました。
こちらにてお返事させていただきますね。

>グループ2がグループ3のhigh gradeとグループ4を混ぜたほうな対応となってきています。

現在の規約通りにグループ分類を運用すれば、そういうこともあり得る、と思います。

旧分類では、グループ分類の数字が大きくなるほどヤバかった(悪性病変である可能性が高い)のですがが、現在のグループ分類では、数字の大きさとヤバさは一致しない、ということに、ご注意ください。Group 2は癌である可能性を否定できない病変を含んだカテゴリーで、Group 3は良性腫瘍です。
直感的にわかりにくく、誤解されかねないのが現在の胃生検グループ分類です。

文献的には、「病理と臨床」の最新号、2011年9月号の「胃癌の生検診断」をお勧めいたします。

>グループ分類は廃止して、純粋に病理組織診断名を記載した方がわかりやすい

おっしゃるとおりです。
個人的には、そうすべきだと考え、特にグループ2についてのみ、既に実行しています。グループ2という診断をつけなくなって一年以上が経過しました。

他臓器の例になりますが、子宮頸部細胞診のBethesda分類や、乳癌取扱い規約などは、数字は使わず記述的診断の方向性です。国内で長らく使われ浸透した胃生検グループ分類は、今後どうなっていくのでしょうね。

現在の胃生検グループ分類の「2」についての私の見解と対応は、直前のエントリ「胃生検Group分類改訂への対応」をお読みください。
http://slummy.cocolog-nifty.com/oshiro/2010/08/group-9285.html

胃と大腸の病態が異なっているのに、胃生検と、大腸生検を共通の分類に統一したため、日本国内で漫然と運用していてはメリットよりもデメリットの方が大きくなりかねないことを私は懸念しています。さまざまな場でこのような論議がされ、現場で「使える」分類となっていくことを願っています。

投稿: 素人 | 2011年9月 5日 (月) 10時35分

お忙しい折、丁寧なコメントをいただき誠に有難うございます。はずかしい話ですが、グループ2の変更については勉強不足のためつい最近まで知りませんでした。”グループ2なのでESDを要す”との病理コメントを見て愕然とした次第です。私の周りの消化器内科医もちゃんと理解している人はあまりいない気がします。内視鏡の電子所見用紙は、機種によってはグループ分類の数字のみが画面に表示され、病理コメントはいちいちボタンをクリックしないと見えないものもあり、臨床医はグループ2の取り扱いに本当に注意が必要だと思います。今後も色々とご指導をよろしくお願い申し上げます。
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slummyです。お返事ありがとうございました。こちらこそ、今後ともどうぞよろしくお願いします。

投稿: 素人 | 2011年9月 9日 (金) 16時35分

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