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2010年6月17日 (木)

第1回沖縄ウロパソセミナー

第1回沖縄ウロパソセミナーというのが先週の土曜日にありまして、参加してまいりました。
どういう会かというと、沖縄県内の泌尿器科医と病理医とが膀胱・前立腺病変について一緒に勉強する会です。
特別講演が二つもあり、とっても勉強になった会でした。

その講演のメモをこちらに載せておきます。
専門用語、略語バリバリですので意味不明な方はどうぞスルーしてください。
それと、あくまでも私の個人的なメモです。私の理解不足のために間違った記載をしているかもしれませんが、その間違いの責任は講師ではなく私にあります。
もし明らかな間違いお気づきの方がありましたらお知らせください。
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特別講演1 「膀胱尿路上皮病変について」
 原三信病院 臨床病理部 部長 河野眞司先生

TUR-BTを中心とした話。
1.浸潤の評価、2.異型の弱い乳頭状病変、3.UC以外のBT

1.浸潤の評価

TUR-BTの材料はすべて標本化する。ガラス20枚くらいになることもあるが。
臨床が深達度判定を希望する場合は、虫ピンで発泡スチロールに貼ってもらう。
貼ることで深達度の評価ができる。
(講演終了後、参加していた元同僚の泌尿器科の先生に尋ねた。
 「どっちが粘膜面なのか、わかるものなのですか?」って。
 その先生によると、取ったばかりの生標本ならば、案外、わかるらしい。不思議だ!)

膀胱の粘膜筋板がない時には、大きな血管を指標に進達度判定をする。
固有筋層に入るとT2。
脂肪は深達度判定の材料にならない。
浸潤:基底膜の不整と、形が丸くないtumor cell nestを確認する。
G1=pTa,G3=pT2のことが多い、というのも認識しておくべき。
臨床医が「何か変だ」と思うことは、情報として記載してもらわない限り、病理医はわかりようがない。

チリチリに縮んだ材料では診断できない。
上手な先生は切片が大きく、標本の状態が良い。
病変が大きいときは、深部のTURだけ別の瓶に入れるなど工夫が必要。

artifactをどう鑑別するのか???(講演後に質問した。)
→ 泌尿器の先生に伝え続けること。
  診断できる標本、診断できない標本がある。
  もっと上手になっていただくためにも。

pT1で粘膜筋板、固有筋層が同定できたならば、
程度(deep or superficial)、範囲(focal, extensive)を書く。
判定できない場合は何も書かないのではなく、「判定できない」と書く。
判定できない理由も明記する。

pT1 or pT2:なかなか難しい。
特にRe-TURは固有筋層の束がほつれてくるので、なかなか判定が難しい。
上皮性のnestを探す。
三角部では粘膜筋板がなく固有筋層が粘膜直下まで来ているので、pT2となる症例が多い

球根状増殖をしてpTa or pT1かの判定が難しい症例がある=わからない、と書く
気をつけて見れば、わかることがあるのでちゃんと見ること!
裂隙によってわかることがある。
浸潤(bulbous downward growth)の良い目安になる

リンパ管侵襲:裂隙があるような場合は侵襲ではないことが多い
また、基底膜直下にリンパ管内の胞巣があった時には注意が必要。
まずHEできちんと目星をつけてからD2-40を染める。
膀胱粘膜下にはD2-40に陽性になるネットワークがいっぱいあって混乱の元。
D2-40を染めたことを後悔しかねない。

TUR-BT材料はあくまでも部分でしかない。
G1, papillary, pTa in the specimen
            ^^^^^^^^^^^^^^^
これを書かないと誤解する臨床医がいる。

2.異型の弱い乳頭状病変

Papillary hyperplasia:低い・非分岐
 異型は問わない。前ガン病変との説もある。
 分岐しないことが重要。
 表面で分岐しているならG1 pTa。

Papilloma:周囲の上皮と同じ上皮が増殖、まれ。
 ものすごく稀、と考えた方がいい。
 原三信でも8年間?で3例。
 非病変部と細胞像、組織像をよーーく比較すること。
 正常と同じ上皮が増殖している、というのがcliteriaになる。
 きれいにumbrelaまで分化している。

PUNLMP(papillary urothelial neoplasm of low malignant potential):
整然・均一(だがmalignant potential)
再発率はLow grad UCより低いけれど、進行するものがある。
G1 pTaの最も異型がないものがPUNLMPと理解する
monotounousな印象、6層以上、分裂像も少ない。
UC, G1, pTa, ly0, v0, papillaryと診断して付記している。
厳密な区別は困難、連続スペクトラムで考えた方がいい。

(この疾患概念について、懇親会席上で白石先生と雑談。
 アメリカでは50代でいきなり膀胱癌と診断されてしまうと保険が効かないことが
 多いらしい。それで、まずはこういう病名をつけておき、それから保険に入って
 もらえば間に合う?という話だとか。アメリカってホントすごい国。)

G1 pTa:核があっち向いたりこっち向いたり。6層なくても異型があればつける。

3.UC以外のBT

papillary /polypoid cystitis
膀胱炎でpapillaryになることがある、という認識が必要。
炎症細胞浸潤が非常に強ければ診断しやすい。
尖っている所が分岐していないか、をみる。
(毛細血管が入った枝が見えないか?)

proliferative cystitis
腸上皮化生をきたすことも。

注:Brunn's nest:nestの中にとどまったcarcinomaは pT1としない。pTaもしくはCIS。
UC のnested variantは非常にまれ。10年待ってるが遭遇できない。

Nephrogenic adenoma:乳頭状に変化してくることがある、穴があいてる?
p504S(AMACR)positiveなので良いマーカーになる。

Inverted papilloma、classic pattern
  かなり乳頭状になってくることがあるので
 注意が必要=hybrid papilloma
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特別講演2 「前立腺癌取り扱い規約の改定について」
 三重大学医学系研究科 病態解明医学講座 教授 白石泰三先生

2010年末に改訂版(第4版)出版予定
腎臓、尿路、前立腺いずれも改訂。

組織分類で分化度分類は廃止
Gleason一本で行く、それも2005年改訂のGleasonで。
ASAP, STUMPの概念

前立腺癌の診断。

構造異型:
・糸球体化、癌に特異的だが頻度が低い
・collagenous micronodule;同様(頻度が低いが特異度は高い)
・神経周囲浸潤:まれに良性でもあるので、全周性のみにしましょう。

細胞異型:
・両染性細胞質:Epsteinは腺癌の41%というが・・・主観的な判定
・核分裂像は癌症例の2~13%しかみられない

前立腺癌の核小体所見:
・顕在化:定義は不定
 癌の76から100%にみられるとも。
・複数化
・核縁付着

管腔内構造:
・粘液 Blue mucin
・クリスタロイド
・類デンプン小体は癌では出にくい

Gleason分類:
・低倍で観察、組織構築と浸潤様式で分類
  ×10 とかの対物倍率で決めること
・優位な組織像とその次を記載、2番目が5%以下なら二つ同じものを記載

2005年改訂
・リスク分類などを作っている病理医たちが集まって、自分たちの診断を確認した
ような印象がある
・2/3以上の賛成で合意、と判断した
・AJSPに掲載

パターン3
 (以前はグレードと言ったが、パターンに変えた)
・単純腺管
・輪郭不整
・生検ではパターン2はつけない
・癌か否か、迷ったが癌と診断したようなものはパターン3
・小型の篩状腺管はパターン3
  →小型というのは、生検標本の幅の半分以下がおおよその目安
・強拡大での融合腺管は4にしない!!

パターン4
・篩状腺管は通常パターン4
・複合腺管で、管腔形成があればパターン4
・Hyeprnephromatoid
・Ductal carcinoma
・強拡大でsingle cellはパターン4

パターン5
・管腔がない
・壊死がある(comedo)

Gleason's scoreは6と7で全体の86%を占める

2005年の改訂についての注意

・篩状構造の多くはパターン4
・5%ルールを無視する場合がある
(強拡大で探してはいけない!)
少量の腫瘍
→ high gradeが少量の場合は(生検のみ)無視しないできちんと記載する
・3パターンが混在するなら、一番多いのと、一番悪いのを記載
・複数コアに腫瘍がある場合

Global score;3+4=7:全体をひっくるめた
Highest score;4+4=8:最も悪いものを

規約では生検検体一本ずつ、個別に書く、ということになった。
ただし、リスク分類ではhighest scoreを使うのがstandardのはず。

capではなくEPE
extraprostatic extension
ew→RM
ly, v, pn ,svは存続
ur,b,rは廃止

境界病変、関連疾患
PIN
AAH→adenosis
ASAP

腺症:adenosis

Atypical small acinar proliferation,ASAP
生検標本でみられる小さい病変。
癌と確定診断できる異型がみられない場合。
再生検すると結構な頻度で癌がみつかる。
PINよりも癌がみつかる頻度が高い。
問題点:免疫染色で癌と言えればいいのだが、小病変なので、なくなることも。

・生検本数とPINの再生検
 6カ所生検だとPINの再生検で癌が見つかる
12カ所生検なら、PINがみつかっても再生検は不要では。
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2010年6月 8日 (火)

難しい標本に遭遇したとき

胃生検の小部屋、というブログがあり、ちょくちょく訪問しております。
今回、興味深い標本(と病理診断医なら誰もが思うのでは?)がアップされていたので、コメントしようかとも思ったのですが、長くなり話もそれましたので自分のブログの記事にしました。


「胃生検の小部屋」

 大腸腫瘍、腺腫か腺癌か?深達度は?

うーん、興味深い、というか、難しい、というか。
実際、日常的な診断現場で、こういう症例に悩まされてばかりです。
週に1回のやんばる二人病理医の会でも、こういう症例を互いに持ち寄ることがとても多いです。
これは「めったにない、まれな」難しい標本ではなく、「よくある」難しい標本だと思います。

大腸腫瘍の症例で、粘膜切除標本のような画像が提示されています。
(実は手術標本で、その一部のみを見せている、という可能性もあるけれど。)
で、ブログ主であるドクトル・クッシーは、この大腸腫瘍が、腺腫(=良性腫瘍)か、癌か、と尋ねてるんです。

え~っと。私なりに答えてみます。
腺密度の低さと細胞極性の保持(この倍率ではわかりにくいんですが、核が比較的、基底側に寄っているように思えます)からは、腺腫なんじゃないかなー、と思える画像です。
でも、この程度の異型の腺癌って大腸の場合、十分、あり得るんですよね。
同じような異型腺管が所属リンパ節にありました、ということだったら、「ごめんなさい、腺腫じゃなくて腺癌だったんですね、私には、わかりませんでした」って答えたくなっちゃう。

腫瘍内の腺腔に貯留した粘液が粘膜下層にはみ出ている、というのも悩ましい所見です。
腫瘍細胞は、標本を見る限り、粘膜下層に入り込んでいない。

容易には決着がつかない、ホントに難しい標本です。

>もし低異型度癌と判断するのならば、深達度はどうするのでしょうか?

という質問ですが、その答えもいずれ書くとして・・・判断、という言葉にひっかかりました。
病理「判断」ではなく、病理「診断」、を生業としているものですから。

話を敢えてそらします。
こういう病変を「診断」するときの、個人的な鉄則があります。

患者さんの「病理診断」は「人体病変組織分類学」ではない、という鉄則です。

標本にあらわれた事実をできるだけありのままに、患者さんの診療にあたっている臨床医に伝える、のが病理診断の役割であり、病理医の仕事だと私は思っています。
そのために、私は病院に雇われて働いているんだとすら思っています。私にとっては、どういう名前の範疇に分類する、どこの概念に入れると判断する、ということは臨床医に正確に伝えるための手段にすぎません。

私はドクトル・クッシーのような消化管病理専門医ではなく、沖縄の僻地の病院で一人で働いている、一般病理医に過ぎません。分類を作る立場ではなく、分類を手段として使うだけの立場です。
私でも迷わずに診断できる、良悪の決着が簡単につく症例もいっぱいあり、それはサッサと病理診断書を発行してサラサラっとサインして終われるんですが、そうはいかない、難しい標本にもしばしば遭遇します。
この標本のような、よくある、難しい標本です。

だから、この標本が粘膜切除標本として私の顕微鏡のステージの上に載ったなら、
「ああ、なんて難しい標本なんだろう!!」と大きな溜息をつくことになると思います。
で、次に、この標本の難しさをどう臨床医に伝えられるかなぁ、と考えます。
考えがまとまったら、私は、臨床医(患者さんの診療に責任をもってあたる立場の医師)に電話するんです。

「○月×日に内視鏡で大腸腫瘍を切除された△△△さんの標本のことなんですけど、今、お時間大丈夫ですか?お話してもよろしいですか?」って。

お話する許可が得られたら、以下のような内容を説明します。

「すみません、とても難しい症例で、困ってるんです。どうしましょう。」
「腺腫なのか、高分化腺癌なのか、病理学的には鑑別に迷うような腫瘍なんです。」
「どっちであっても不思議でない、というか、確率50%、というか。」
(注:この50%という数字はかなりテキトーです。なんのエビデンスもなく、私の主観を表現するために数字を用いてるだけですから。かなり癌っぽい、Group4に相当するような病変だと思えば「90%は癌だと思うんですけど、10%は癌じゃないかもしれないので」っていう言葉で伝えたりします。もちろん病理診断書にはそんな数字は記載しません、口頭のみです。)
「腫瘍であるのは間違いないんですが、良性とも悪性とも決定できなくて。鑑別がすごく難しいんです。」
「明らかに癌だっていう所見ではないので、疑わしきは罰せず、というのを原則にするのなら、敢えて言うとしたら腺腫、ということになるんですが・・・癌を否定できるか、と聞かれたらぜんぜん否定できないんですよ。こういう癌もありえるんです。絶対に悪性だ、と断定はできません。でも、悪性であったとしても不思議ではない、という組織に私には見えます。」
「それに、もしこれが悪性だったとしたら、深達度についても判定するのが難しくて・・・腫瘍細胞は粘膜固有層内にしかないんですが、粘液を産生するタイプの腫瘍で、その腫瘍細胞が産生した粘液が粘膜下層にまで入り込んでいるんです。大腸癌取り扱い規約も、こういうのは想定外じゃないかと思うんですが。」
「要するに、良性か悪性かも難しい上に、悪性だったとしたらm癌なのかsm癌なのかも難しい。」
「すみません、そういう感じで、とても難しい腫瘍なんです。」
「病理診断としてはいちおうhigh-grade adenoma,  see descriptionって書いて発行しようかと思ってるんですけど、ただの高異型腺腫じゃないんです。どうしましょう?」

という調子で、ひとしきり私が見たままの標本上の事実を説明します。
で、その次は臨床医に質問しまくります。

「患者さんの年齢が○○才なんですけど、お元気な方なんでしょうか?」
「もしこれが癌で、粘膜下層にまで達しているということだったら、大腸部分切除とリンパ節廓清まで、ありえるんでしょうか?」

標本の所見が一緒でも、患者さんの状態で治療には大きな差があります。
たとえば、患者さんが95歳で特別養護老人ホームに入所中、オムツに血が着き、貧血もあるということでウチの病院に紹介され、その精査として(家族の希望もあって)大腸内視鏡検査をしたら小さい腫瘍があったため内視鏡的に切除された、というような方の場合は、家族と相談するにせよ、経過観察になる可能性が高いと思うんです。
それに対し、患者さんが40歳で元気に仕事もしている人だったら、本人に対して内科医もしくは外科医がきちんと説明して理解してもらい、ご本人にどうするのかを決めてもらわなくてはなりません。場合によっては結腸部分切除、リンパ節廓清まであり得ます。

この標本のように良悪判定すら難しい場合は「診断が難しい病変である」ということを、医療者側の共通認識にしておいて、その後の方針を決める必要があるんだと思ってます。
なんといっても、結果が重大ですから。

電話した相手が内科医で、これから外科にコンサルトするというのだったら、そのコンサルト相手の外科医におんなじ話をしたりします。
で、この標本の所見だけで外科医が結腸部分切除術をするというのなら、病理検査室に来てもらって、一緒に標本をみながら、標本上の現実を外科医の目で見てもらいながら「ホントに、ホントに、これで、手術していいんですね?」と念を押したりするかも。

「人体病変組織分類学」にも興味はあります。学問と医療は密接に関係しています。
分類学の進歩を私は楽しみにしているんですが、分類学の限界も感じています。
限界にぶちあたりながら病理診断している者の立場で、日常の風景を再現してみました。

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