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2010年5月23日 (日)

もしも病理医がいなかったら?

「ナイチンゲール」を読んで看護師になりたいと言っていた娘(10歳)が、最近は「病理医になろうかな」なんて言っています。

親としては、嬉しい半分、困惑半分、です。
どうして考えが変わったの?と聞いてみました。
娘いわく、今年の医局新年会に連れて行かれた時に(ええ、連れて行ったのは私です)、副院長先生に「大きくなったら何になりたいの」と尋ねられ「看護師、人を助けたいから!」と答えたら「看護師になっても人を助けられるけれど、お医者さんになったら、もっともっと人を助けられるよ」と言われたのがきっかけだそうで。
娘にとって身近な「お医者さん」は病理医なので、病理医になろうかなー、と言ってるようです。(っていうか、他のお医者さんの仕事をよく知らないから?)
病理医の仕事はおおまかに説明してあり、トリセツ・カラダを書いたのも病理医だよ(海堂先生……書かれた当時は病理医でしたよね)と話したのも、トリセツ・カラダをかなり気に入ってる娘には良いイメージになったようです。

で、ある日「もしも病理医がいなかったら、どうなるの?」とその娘に質問されました。
これはストレートな質問だ!と、めいっぱい力説しようとしたら、宿題まっ最中のもう一人の娘から「おかあさん、うるさい!宿題のじゃま!」と恐ろしい苦情が。
じゃあサイレントに、と、私なりの回答をPOMERAでガーーっと作成し、娘に読ませました。
それが、以下の文章です。なんだか悪い翻訳文のような、ぎこちない文章ですけど。
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もしも病理医がいなかったら?

もしも病理医がいなかったら、
 ガンを早いうちに見つけることも、
 ガンの広がりを正確にとらえてきちん治療することもできない。

もしも病理医がいなかったら、
 ガンじゃない人を、ガンのおそれがあるからといって治療することになったり、
 本当はガンの人を、ガンとはっきりさせることができなくて、治療が手遅れになったりする。

もしも病理医がいなかったら、
 ガンかどうかわからないままに手術をしたり、
 抗ガン剤(髪の毛がぬけるなどの副作用が強い)の治療をうけなくてはならない人たちがいっぱい出てくる。

 今も病理医がいない病院では、ガンの手術を「広めに」するしかない。
 胃ガンで手術をする人の胃を半分残したり、
 乳ガンで手術をする人の乳房の一部分だけを切ったりできるのは、
 切った部分のはじっこに「ガンがない」と病理医が(手術中に)顕微鏡で診断するから。
 病理医がいなかったら「全部切る」しかない。

もう一つ、病理解剖ができなくなる。
 病院で治療を受けたけれど、亡くなってしまう人は決して少なくない。
 人はみんな、いつか死ぬ。
 でも、病理医がいないと解剖して調べることができなくなる。
 生きているうちにした治療がそれで良かったのか、
 もっとできることはなかったのか、
 この次に同じような病気の人があらわれたらどうしたらいいのか、
 病理解剖ができなくなると、わからなくなる。

 病理医は、患者さんには直接会わないかもしれないけれど、
 患者さんを助けるために大切な仕事をしている。
 アメリカでは「お医者さんのお医者さん」と呼ばれることもある。
 病理医が他のお医者さんたちの手助けをしてることが、いっぱいあるから。

もしも病理医がいなくても、人は生まれてきて、病気になり、最後は死ぬ。
もしも病理医がいなかったとしても、世界はまわっていく。
でも、もしも病理医がいなかったら、
世の中の人たちは、もうちょびっとだけ、不幸せになる。

 ちょびっとだけ、不幸せになる人が、一人でも少なくなって欲しい。
 お母さんはそう願って、病理医の仕事をしている。

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2010年5月15日 (土)

腎生検のイメージ&実体顕微鏡下の図

いきなり詳細な話になってしまいますが。
腎生検の際に採取された検体を生の状態で実体顕微鏡でみて、糸球体の有無を確認する、という作業があります。
その理解のために模式図のようなものを作成したので、こちらにアップしておきます。

1_2
まずは腎臓に穿刺針が入った時のイメージ図です。
こんな感じで、腎臓に針が刺さり、腎臓の一部が採られてくる、と思ってください。
一本の検体の中に皮質と髄質がある、理想的な検体です。
2
実際にはこういう形で両端に皮質があったり、髄質がまったく採取されてなくて皮質だけだったりすることもあるので、この点は注意が必要です。
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実体顕微鏡で見た像をイラストにしてみました。
まぁ、大体こんな感じで見える、という模式図です。
実物は未染色、こんな色はついていませんが、赤血球を豊富に含む糸球体だと赤っぽく見えます。
腎生検では糸球体の所見が特に大事なので、糸球体を含む(=皮質を含む)検体であるかどうかを確認する必要があります。
4
ほとんど髄質だけ、という検体が採られてくることもあります。
これはなかなか難しいです。血管や尿細管が輪切りになって集合していると、糸球体に見えてしまったり。

通常の腎生検では、診断のためには電顕(電子顕微鏡)、光顕(光学顕微鏡)、蛍光(免疫組織化学)の三つに検体を出す必要があり、それぞれに糸球体が含まれている必要があります。検体に含まれる糸球体の数があまりにも少ない時は術者に伝え、再度穿刺するようお願いすることもあります。

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2010年5月 9日 (日)

保育園で話したこと

昨日、「こどもの病気とのつきあいかた」というタイトルで、保育園で話をしてきました。

対象者は、2歳児クラスの保護者です。
お母さん10数名、お父さん数名、それから保育園の先生方、数名。
20分くらい話をして、それから質問を受けて(10分程度)終わりでした。

何を話したか、ってのを自分で思い出して記録してみましたので、よろしかったお読みください。

例によって長文です。すみません。
(以下、あくまでも個人的な見解がたくさん入っています。内容を参考にするにしても自己責任でお願いします!)

~こどもの病気との「つきあいかた」という題にした理由~

こどもは病気をするもの、病気をしてあたりまえ。
病気をして熱を出して、こどもの身体が病原菌に対応するやり方をおぼえていく(免疫をつけていく)んだと思っています。
こどもは病気をして病気への抵抗力をつけていくので、病気をしない方がむしろ心配なくらい。
だから、こどもの病気はやっつけるものでも、無くすものでもなく、親として、つきあっていくもの、だと思うんです。

だけど、こどもの病気は親もたいへんだし、こども自身もつらいもの。
私は親であると同時に医師で、そういう親の子が病気になっても親として全然、大変じゃない、とみなさんは思われるかもしれません。でも、私はすごく、こどもの病気に悩まされたし、ホントにホントに大変で、医師である私でもそんなに大変で悩むんだったら、一般の親にとって、こどもの病気はどれほど大変なことなんだろう、と思うんです。

最初の子の時が一番大変で(何がこどもの「普通」なのかがわからないので、何でも異常のように思えてしまう)、二人目、三人目と同じように病気をしても、親として慣れてきて、病気とのつきあいかた、が解ってくるような感じがあります。子が病気をするのは一緒でも、親として対処の仕方が上手になり、こどもが病気で世話をする時間も、親子で過ごす大切な時間と思えるようになってきたりしました。
なので、こどもの病気と上手につきあっていく方法、というのがあるんじゃないか、と思うんです。大変な中でも少しは気楽に、ストレス少なく、こども病気とつきあっていけるのならその方がいいので、そのためのヒントになるような話ができたら、と思います。

~保育園から電話がかかってきたら~

(この部分はほぼ原稿と同じ展開だったので簡単に。)

電話での話だけで決めてしまわないで、親自身の目で子を見て、手で触って、呼びかけて
目があうかどうか確かめて、それから病院に行くかどうかを考えましょう。

親の目で、こどもの様子を確かめる、
親の手で、こどもに触れて、こどもの熱を感じる、
親の声で、こどもに呼びかけて、こどもがどう反応するか(上手に話ができない年齢の子なら、こどもと目が合うか)を見る、そういうすべてが、こどもの病気とつきあっていくためには欠かせません。

~こどもが出す、熱について~

熱、たとえば同じ40度の熱があっても、大人の熱とこどもの熱はぜんぜん意味が違います。先日、私の弟(30代)が40度の熱を出して病院を受診し、肺炎と診断されて入院しましたけれど、大人だと40度の熱というのはそれくらい重病。だけど、こどもの場合は40度だから間違いなく重病、ということではなく、ちょっとした風邪で40度くらいの熱を出してしまうこともあります。
よく心配されるのですが、高い熱がでたからといってそれだけで脳がダメになるということはありません。40度、いや、41度の熱を出しても、それだけではこどもの脳はダメにならない。

こどもの熱は、体が免疫をつけている、病原菌への対抗方法を練習しているような状態だと思います。
熱があってフーフー言ってても、水分を飲むことができていて(こどもは脱水になりやすいので、口から水分補給ができるか、は、とても大事)、名前を呼んだら目がちゃんとあうなら、大至急病院に行くことはないんです。

個人的には、熱が出始めてから3日は家で様子をみてもOKと考えています。
保育園から熱がある、と呼ばれて、熱があっても水分がとれておしっこも出ているなら、次の日、場合によってはその次の日まで家でこどもをみることにしていました。
3日目の朝になっても熱が高かったりで、良くなりそうな様子がないなら、その日の日中に病院に行くか、次の日に行くかを考える、という感じです。

~病院とのつきあいかた~

病院は24時間、開いているけれど、昼(通常の診療時間)と夜(時間外、休日)では医師が子を診る、そのみかたが違うことも知っておいてください。
コンビニで24時間いつも同じ商品が買えるのと同じに考えてはいけなくて、時間外だと、医師は「明日の朝までこの子の命がちゃんと続くか」という点だけにポイントをおいて診ます。
24時間救急というのはそういうものです。
今すぐ処置をしないと重症になるという子には対処しますが、翌日の朝までのこどもの命を守るのが夜の救急ですので、そこで風邪薬を数日分もらうとかはできません。

こども一人一人を丁寧にみて、その子にあった治療方法、長い目で見たときの治療の影響や生活への関わりなど、今後のことなどもしっかり考えるのは、平日時間内の診療の時だけ、と思った方がいいでしょう。
ちゃんとした診察をしてもらいたかったら、夜や休日ではなく昼の病院受付時間内に診察を受けた方がいいんです。

~誰が病院に連れていく?~

病院には親が連れていきましょう。
おばあちゃんが病院に連れていき、日頃の様子を医師に尋ねられ「日頃は保育園なのでわかりません」としか言えなくて、医師もおばあちゃんも、困ってしまうこともあるそうです。
お父さんとお母さんがいる家庭なら、どちらか一方ばかりではなく、お母さんが休んだら次はお父さん、という風に交代で仕事を休むことをお勧めします。
お父さんもお母さんも仕事をしているから保育園にこどもを預けているのですし、こどもの病気は家庭のピンチですから、お互いに助け合ってピンチを乗り越えないとキツイです。

こどもが病気で保育園から連絡をもらって、誰かが仕事を休まなくちゃいけなくて、ホントに親は大変です。保育園に預け始めたころは特に、それまでなかった病原菌にいっぱい出合ってしょっちゅう病気をして、登園できる日より登園できない日の方が多くて、今月の保育料返してくれ(笑)と言いたいような時もありますけれど、そういう時期は必ず、終わります。3歳のお誕生日をすぎたら、熱を出すのも年に数回とかになってきます。こどもの病気に終わりはなくて、ずっとつきあっていかなくちゃいけないものではあっても、必ず、丈夫になっていく日が来ます。ほんの数年間のことですから、こどもが病気をしたら腹をくくって、こどもとしっかり向き合う時間、こどもと一緒にすごす大切な時間、だと思って、親の手で、しっかり看病してあげてください。

~「こどもの病気とつきあう」リスト~

最後に、紙を一枚くばりました。
お土産、というか、こどもさんが病気の時に使ってみてください、と。
紙に書くことで、問題を整理し客観的になれるし、記録もできるから、です。
↓こんなことが印刷してある、紙です。必要な方はコピー&ペーストしてご利用ください。
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「こどもの病気とつきあう」リスト

 

□ 熱はいつ、どのくらい?(おでこ、うなじにさわってみる)

 

  __月 __日 ___時 に ____度 ____分

 

□ どんなようす?

 

□ 水分は飲めている?    はい   いいえ

 

□ おしっこは出ている? いつ出たのが最後?   ___時ごろ

 

□ なにが一番、心配なのか、書いてみる

 

こどもの病気は、親子がもっと仲良くなるチャンス
こどもへの目くばり、心くばりを忘れずに

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参加していた保護者の方から、質問もいっぱいありました。
こういう話って必要とされてるのも実感しました。

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