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2008年11月23日 (日)

病院がなくなるかもしれない

趣味でやってるブログを恐ろしい話題で更新する気になれなくって、ずっと避けて来た内容なのですが・・・喉にずっと何かがひっかかったままのような気になり、どうにも、この話題に触れない訳にはいかないなー、と書くことにしました。

沖縄県立病院群はこれから一体どうなるんだろう、という岐路が来てしまいました。
一勤務医である私にわかっていることを、ここに書いておきます。

総務省は平成19年12月に「公立病院改革ガイドライン」というのを出しました。
大雑把にいうと、このガイドラインでは平成20年度中に改革プランを策定し、平成25年までにはプランを実現するよう求めています。
そして今年8月沖縄では「県立病院のあり方検討部会」というのができました。
11月18日に開催された第4回会合についての新聞報道をリンクしておきます。

沖縄タイムス 2008年11月19日
「県立病院すべて民営化/精和は指定管理も/あり方部会方針」
琉球新報 2008年11月19日
「県立病院の『独法化』提起で紛糾」

沖縄県立病院群は、二つの理由で存亡の危機に瀕してしまっています。
一つは財政問題、もう一つは医師不足問題、です。

まず、沖縄県立病院群の激悪な財政事情(資料4-7)について書いてみます。
といっても私は経営とか財政とかについてはまったくのシロートです。
で、そんな私でも病院財政を理解できるよう、もっとはるかに規模の小さい、家計になぞらえてみました。
以下、家計になぞらつつ資料4-7が何を言ってるか、ってのを解説してみます。
(もちろんシロートの理解なので、間違ってるところもあるかもしれません、ひどい間違いにお気づきの方はご指摘ください。)

沖縄県立病院さんちって稼ぎが悪いのか、金遣いが荒いのか・・・いつも収入と比べて支出が大幅に大きく、借金頼みのお財布事情です。
借金(一時借入金)の額は100億円(!!)を超えてしまっています。
年末になっても100億の借金を返せない沖縄県立病院さん一家は、仕方がないので薬屋さんたちの支払いを翌年に延ばしてもらって、なんとか20億円は返しましたが、あと80億円はどうにもならず、別の借金先に「借り換え」することで、ようやく年を越しました。
年を越したら親戚(県の一般会計)からお金が入ります(繰入金、長期貸付金)。
親戚に借りたお金をそのまま借金先に持ち込み、さて、延ばしてもらった薬屋さんたちへの支払いをどうしよう、と頭を抱えています。


沖縄県立病院さんち、夜逃げ寸前!?とにかく、すっごい状態の家計!

厳密ではないかもしれませんが、まぁこういう感じの財政状況、と私は理解してます。

調べてみたところ、財政破綻した夕張市立病院の一時借入金は39億円でした。
年度途中で融資拒絶のため「倒産」した公立深谷病院の一時借入金は17億円。
沖縄県立病院群の借金は6病院で100億円。
はっきりいって、既に財政破綻している、という状態です。
(って、そこから給料をもらって暮らしている人間が書くのも変ですが。)

そこへ二つ目の、医師不足問題が急浮上してきます。
あり方委員会での議論とは無関係に、病院事業局は医師給与を下げる方針を明らかにしてきました。こちらも新聞で報道されています。

琉球新報 2008年10月28日
「県病院事業局、医師手当など全廃」
沖縄タイムス 2008年10月28日
「県立の医師手当 廃止検討/県が提示/年最大5億円初任給手当へ」

沖縄タイムス 2008年11月11日
「年2億5000万円減額提示 県立病院給与/組合側に病院事業局 医師手当は審議継続」
琉球新報 2008年11月11日
「県、全廃を再提案 医師調整額」

「医者の給料が高いから赤字なんだろう、医者の給料を下げれば黒字になるんじゃないか?」と考えますか?
いや、それは間違っている、と即答できます。

まず、県立病院群の医師の給料が高いかどうか、について。
病院事業局が作成した、県内民間病院との給与比較が公開されています。
県立病院に勤務する医師の給料は、県内の民間病院よりも低いのです。

低い給料を更に下げたら、どうなると思いますか?
上にリンクした琉球新報2008年10月28日の記事、最後の部分を引用します。

>県公務員医師会が昨年5月に会員226人を対象に実施した「医師偏在化
>問題と医師手当に関する意識調査」では医師手当が廃止された場合、
>47・5%が「退職したい」と回答、
>「最後まで勤務する」とした9・5%を大きく上回っている。

なお、私もこの時「退職したい」と回答しています。
医師手当、大きいですもん。

で、医師が退職すると、どうなるのでしょうか。
医師不足、という状態になるわけです。

医師不足だと、どうなるのでしょうか?
平成20年9月末に休止となった銚子市立病院がいい例です。
2年前の4月には35人いた常勤医が次々と退職し、今年7月末にはとうとう外科と内科がそれぞれ1人ずつになってしまったため、診療を継続できなくなり、9月末に休止しました。

医師がいないと診療ができない、のはわかりますね。
でも医師がいなくなると患者さんの診療ができないだけではなく、病院の赤字も増えるのです。

病院収入の最大のものは「診療報酬」です。
医師が患者さんを診療することによって得られるのが「診療報酬」です。
診療報酬が病院の収入となり、その収入で職員の給料を支払うだけではなく、薬などの診療材料を買ったり、医療機器を新しくしたり、古くなった建物を建て替えたりする、というのが経営がうまくいっている病院です。
医師がいなくなると、その診療報酬が減ります。

沖縄県立病院の医師は、大体一人当たり年間7千万円程度の診療報酬を病院にもたらし、その中から1千数百万円程度の給与を自分のものとして得ている、という話です。
それでもし、10人の医師が辞めたら。
収入としては年間7億円の診療報酬が減ります。
出費としては、1億数千万円の医師給与が減ります。
10人の医師が退職したら、単純計算で5億数千万の赤字、ということですね。

病院事業局としては、医師の給与を減らして2億円程度を浮かせるつもりらしいですが、その程度の額は(って2億なんてお金は見たこともないのに「その程度」って書くのは気がひけますが)仮に10人の医師が辞めたら…浮くどころか、大赤字です。

医師の給与を減らすことで、本当に病院の財政は改善できるのでしょうか?
簡単な私の試算でも、病院の財政が改善できない、ということがわかるのですが。
1年前の調査で、医師手当がなくなったら100人以上の医師が「退職したい」と回答しているのに。

ブログを読めばわかるとおり、私は沖縄県立病院勤務の医師です。
渦中にある者がこんなことを書いていいのだろうか、とずっと、ためらっていました。
でも、県民の中で、どれだけの人たちがこの問題を理解しているのだろう?と不安になり、こんなエントリを公表することにしました。

病院がなくなるかもしれない、という問題の当事者は、私たち医師などの病院職員だけではないのですから。
県立病院という生きた組織は、県民の共有財産だと思います。
病院だけの問題ではなく、地域の問題、県民の問題です。

地域の人たちにとって、県立病院は空気のような存在になっていると思います。
あって当たり前、なくなった状態なんて想像もできない、と。
病院がなくなる、診療をやめるなんて、考えられないかもしれません。
でも実際、私の勤務先は産婦人科医師不足で、産婦人科の診療を3年以上休止していました。
関係者の努力により産婦人科は再開しましたが、今度は病院そのものが危ない状態です。

本当に、今、なすがままにまかせておいて、いいのでしょうか。

PS:「民営化されても病院は同じ」ではありません。民営化されたら「算術」である「医」を、今とは比較にならないレベルで要求されますので、できることも異なってきます。
医を仁術ではなく算術にしてしまったのは、国の医療費抑制政策ですが。

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コメント

 こんにちは。大変な事になっていますね。お疲れさまです。こちらがよくも悪くも先例になって、日本全国の公立病院が右に倣えをしそうで、、。どういう解決が一番なんでしょうか。私は想像もつきません。
 沖縄県全体が大変な財政危機なのも事実ですし。どうなっていくのでしょう。

投稿: green leaves | 2008年11月23日 (日) 15時55分

恐らく、お上(県&指南役の総務省)は、最終的には、採算の合う病院は民間移譲、赤字病院は廃止という方向へもって行きたいのだと思います。民間移譲の際に利権が生まれ、赤字病院廃止で財政負担が軽減されるという一石二鳥を考えているのだと思います。ただ、上手くいかなければ更地ですね!

沖縄県民の皆さん、良いんですかね?
上手くいっても医療水準はかなり下がると思います(民間は、不採算部をギリギリまで圧縮しますから)。

ちなみに、累積欠損金が6病院で100億円なら、御立派です(病院関係者はよく頑張っていると思います)。私の近隣の公立病院(東日本にある病院ですが・・・)は1病院で100億円超です。高度医療を施せば施すほど赤字になる診療報酬制度にメスを入れなければ根本的な解決にはならないと思っています。
現在の、経済諮問会議による総額決定→中医協による診療報酬決定のシステムを早急に変えないとならないことは明らかです。

投稿: | 2008年11月23日 (日) 16時17分

いつも先生のブログを楽しく読んでいます。自分も沖縄県立病院に勤務していましたので、沖縄を離れた今も、県立病院関係のニュースは気になるところです。
僕もこのニュースをみて、いよいよかと思いました。以前から借金が多く、県立病院はそのうち潰されるとの噂はありました。それが離島や保健所の医師手当の廃止、県立病院全体の医師手当の廃止など、現場の士気をそぐ話が続き、今回いよいよ民営化の話まで出てしまいましたね。
先生のおっしゃるように、県立病院は地域の人にとって「空気のようにあって当たり前」となっていると想像します。大赤字で潰れそうとの認識は、住民の方達にはいまいち伝わっていないと思います(少なくとも僕が勤めていた当時は)。
いっそのこと民営化して、職員の定員を廃止したり、事務方の無駄な移動をなくしたりして、病院経営に特化せざるをえないかなと、外野としては感じてしまいます。救急のいわゆるたらい回し(正しくは搬送受け入れられず)が増えないか不安ですが。
応援しています。

投稿: 馬広 | 2008年11月26日 (水) 16時17分

実際に人の命を救うのは「仁術」でも「使命感」でも「奉仕」でもなく、「マンパワー」「リソース」「キャパシティ」である。

その事から目を逸らして、「竹槍でB29を落とせ」というような精神論ばかり言ってる愚民には、医療は必要ないんじゃないかと思います。

以前は「医療崩壊を防ぐために自分に出来ることはないか」と色々と考えてきましたが、最近は、牟田口症候群のあまりの多さに失望し、「全国のお医者さん逃げてー!」というスタンスに変わりつつあります(って、現時点で既にそうなってますけど)。

もしも自分や自分の家族が必要な医療を受けられずに命を落としたとしても、医療従事者を酷使し疲弊させ続けた愚民を恨みこそすれ、命を削って頑張ってきた医療従事者を恨むことはありません。

投稿: 都筑てんが | 2009年7月 1日 (水) 00時43分

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