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2007年7月31日 (火)

臨床から病理への転科

卒後4年目、内科2年目で病理への転科を考えているというkikoさんへ。
コメント欄を利用してのご質問、ありがとうございました。
お返事を一つのエントリにさせていただきますね。

ちょうど、臨床研修制度が始まった時期に医師となられて、いろいろ情報も錯綜し、
迷いの種になるようなことも多いのだと思います。
で、このブログの趣旨にも叶ったことですので、病理医という仕事に関して、
思いつくことをつらつらと、書いてみますね。

今、病理医として活躍している人には、臨床を数年経験してから、という人が決して
少なくありません。
たとえばこの方、田中先生元小児科医です。それもNICUのバリバリ小児科医。
詳細はリンク先、田中先生のHPをお読み下さいね。
なぜ小児科医から病理医になったのか、ということについても詳しく書かれています。

私自身は、ローテート研修医としての臨床経験しかありませんが、
それでも病理診断をする上では臨床医としての経験が役に立つ、と思います。
臨床医は、病理医にとって「顧客」のような面があり、顧客の立場がわかる、と
いうのは仕事をすすめる上で役に立つことがたくさんあるのです。

ただ、病理は形態診断、パターン認識なので、デザインや美術の仕事とも似ている
面があって。歳をとって頭が固くなってから病理診断の修行を始めるのは困難です。

誤解しないで欲しいのは「臨床医失格だから病理医になった」というのではないこと。
病理医としての適性と、臨床医としての適性はまったく別の話。
両方に適性がある人もいれば、片方だけに適性がある人もいるし。
極端な話、もともと適性がなくても、医師として社会に貢献することは可能です。
職業訓練というのは、そういうものじゃないでしょうか。
(本人はあんまり幸せじゃないかもしれませんが、社会貢献と本人の幸福も別。)

参考までに、私個人は周囲には臨床向きだと言われ、実際、誘ってくれた科もあった
のですが、誰が何と言おうと自分では絶対、臨床向きでないという確信(苦笑)が
臨床研修を通じて成立し、今に至っています。

それから、病理医となるための専門研修を、病院でするか、大学でするかについて。
私自身は病院で病理医となった人間なのでぜひ病院を勧めたいところですが、
一長一短あるのは事実です。まずは、それぞれの長所を書いてみます。
ただし、以下はあくまでも一般論ということで。

【大学で病理研修をする長所】
・複数の病理医が常にいるので、いろんな見方を教えてもらえる
・症例が豊富。病理は(臨床と違い)大学でも「ごく普通の」標本を見る機会が多い
・研究もできるので「基礎と臨床の橋渡し」としての役割が果たしやすい

【病院で病理研修をする長所】
・多くは決まった指導医につくことになるので、初心者としては混乱が少ない
・大学と比べて各科の敷居が低いので、臨床医からも多く学べる
・病理医として必要な、病理検査室マネジメントについても教えてもらえる

大学の短所は、人不足による忙しさ、診断研究教育のバランスが難しい、という
ところでしょうか。病院の短所は、症例が偏りやすい、研究がしにくい、など。

しかし、これらはあくまでも一般論です。研究がバリバリできる病院もあれば、
めっちゃ忙しい病院だって全然、珍しくない。施設毎の差が大きいです。
病理解剖一つをとってみても、24時間365日、病理解剖を即時に行う体制を敷いて
いる病理部門もあれば(これは臨床側にはともかく、病理側としては大変、負担の
大きいことです)、当院のように夜間は原則として解剖をしない(夜間に亡くなら
れた方のご遺体は保冷庫に入れ、翌朝に解剖する、というのを原則としています、
どうしても急ぐ場合は例外的に夜間に解剖しますが)という病院もあります。

そして、大事なのはいわゆる「オーベン」、つまり指導医だと思います。
特に最初の半年から一年の期間で病理医としての標本の見方、診断方法の基礎固め
が行われますので、その時期に誰が自分を教えてくれるのかというのは大事です。
万人向けの良い指導医、ではなく、あなた個人にとって良い指導医。
人間関係は「相性」がありますから、ある人にとって良い指導医が、あなたに
とって良い指導医とは限らない。他人の評判はそれなりに聞いたとしても。
人間的に尊敬できるような人に巡り会えるといいのですが、そういうのって結果論
(ある程度、一緒に働いてみないとわからない)ですからね・・・。
そして、こればかりはPCの前に座っていても絶対にわからないことです。
実際に病理部門に見学に行き、指導体制を見て、指導医と話をしてみなくては。

それと、もう一つ、アドバイス。
あなたの体力と精神力で耐えられるような苦労なのか、そうでない質・量の苦労
なのか、は飛び込む前に漠然とでも見極めておくこと。
苦労をすることを恐れすぎず、かといって過分な苦労を引き受けないよう。
どんな科でもそうですが、楽ばかりして専門医になる道、というのはありません。
医師の多くは苦労自慢をしないだけ。
苦労の数だけ喜びもあり、その時の苦労がいつか実ることを信じているから、
かもしれません。

病理に興味があり、やる気があるのなら、しっかり研修して病理医になることが
できると思いますよ。頑張って下さい。

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2007年7月 1日 (日)

やんばる二人病理医

最近、違う話ばかり書いているので、久しぶりに病理の話題を。

先月から、やんばる(沖縄県北部地域)の常勤病理医が二人になっています。

そう。一人増えたんです。
といっても私の勤務先に増えたわけじゃないですよ。
お隣の病院に、常勤病理医が赴任されたんです。
それも、ずっとこちらの病院に非常勤医として勤務して下さっていた、私にとっては
とても親しく、尊敬できる素敵な先生なんです(女性です)。
診断病理医としての経験年数は私よりも長く、診断の「目」も確か。
これまで、何度も私の誤診を未然に防止して下さった実績もある方です。

ながーーい間、地域唯一の病理医だった私としては、もう、この先生が来て下さったことを考えるだけでニマニマしてしまうくらい、嬉しくてたまりません。
これまで、一番近い所にいる病理医の所まで高速使って1時間以上でしたから。

ずっと「やんばる一人病理医」だったのが、「やんばる二人病理医」になったのです。

☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

標本を一人だけで見て診断するのと、もう一人に見てもらって診断するというのは、診断する側としては、もう、全然、違うんです。
病理診断は顕微鏡の所見をみて診断するもので、どうしても主観が入ります。
その日、その時の体調や精神状態にも左右されます。
体調や精神状態が悪いと、見えるはずのものも見えなかったり。

極端な話をすれば「胃炎」と診断した標本を翌日もう一度見直すと、胃癌だった、ということがあり得るんです。
あんまりしょっちゅう、そういうことがあるようでは専門医としての勉強をもう一度、やり直した方がいいんでしょうけれど…
絶対そういうことがない、という病理医は、この世の中に一人もいないと思います。
人間は、みな、不完全な存在。
完全な病理医、絶対に誤診をしない病理医、というのはいません。

それでも、少しでも誤診を減らし、患者さんに迷惑をかけない診断を100%に近い状態でするために、良心的な病理医はみな、さまざまな工夫をしています。
誰か他の病理医に見てもらう、というのはその最もオーソドックスな手段です。
専門医修行中の医師でも、研修医と一緒に見ても、一人で見るのとは違うんですが、誰か別の病理専門医、信頼できる「目」を持った相手に見てもらう、というのが一番。

複数の病理専門医が全標本を一緒にみる、というのが理想的な方法です。
でも、さまざまな事情で、現実には私のような一人病理医が全国にたくさんいます。
理想と現実は一致しませんね、なかなか。

☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

さて。
せっかく、そういう先生がお隣にく赴任して来られたのです。
ぜひ、病院同士で協力しあって病理診断ができる体制を整えましょう、という話になり、それぞれの院長先生にも説明して了解をいただいて、お互いに業務時間内に行き来してお互いの病院の標本を見に行けるようにしていただきました。
業務として、こういう交流を認めてもらえたのは、個人的には画期的なことでした。

地域の病理標本は、地域で診断するのが一番です。
同じ地域にいる専門医同士が連携し、協力しあって、地域の人たちにより良い医療を提供できるようにしていける体制が整いました。

先方の病院は民間病院。こちらは公立病院です。
公立病院と民間病院の両方があって、緊密な連携体制をとって協力できることは協力し、それぞれの長所を伸ばしつつ短所を補いあいつつ、医療を提供していくことが、地域の住民にとっては一番いいんじゃないか、と私は考えています。

この二つの病院組織の吸収?合併?という話も出ているようですが、二つの組織を一つにするのは、メリットだけではなくデメリットもあり、無理もあります。
個人的にはこのまま二つの病院組織でありつつ、地域に良い医療を提供するという共通目的を忘れず、仲良くやっていきたいです。

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