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2007年5月13日 (日)

医師の労働組合について

新聞に医師手当の削減についての記事が載りました。

「やっぱりこういう日が来たか!あの時に医師の労働組合を作ったのは正解だった!」というのが私の感想です。
(あ、決して私が作った訳ではありません。苦労して作られたのは他の先生方で、私は設立当初から参加させていただいているだけです。)
沖縄県立病院群には、全国でも珍しい「医師による、医師のための労働組合」があるのです。

「医師が労働組合を作って自分たちの利益をはかるなんて、そんなに金が大事か!」

「自分たちの権利ばかり守りたがるような医師にはみてもらいたくない、医師の風上にもおけない!」

・・・と思いますか?

いえいえ、それは完全に、誤解ですよ。
自分の権利や、お金のことばかり考える医師は決して組合など作りません。
これは、断言できます。

自分たちの権利ばかり守りたがるのであれば、医師は労働組合を作ったりせず、他のもっと条件の良い職場に転職します。

医師が労働組合を作ったのは、自分たちのためだけではないのです。

自分たちの労働環境を守ることが、患者さんたちへの医療を守ることに直結しているから、です。

医師も一人の人間であり、一人の労働者です。
そして、医師たるもの、患者さんのことを忘れることはできません。
自分の利益が、患者さんたちへの利益ともなる、と確信したからこそ、医師たちは団結したのです。

       ☆         ☆         ☆

沖縄県は平成11年に一方的に全医師の手当を一律に削減・廃止したことがあり(「医師暫定手当廃止事件」と個人的には呼んでいます)この時に労組がないとまったく県との交渉ができないことを私たち医師の側は知りました。
この「医師暫定手当廃止事件」がきっかけとなり、労組をたちあげました。
既存の(県職員一般のための)労組に医師が参加したのではなく、自分たちのために、組合を作ったのです。政治色はありません。

ここは病理医ブログですので、病理医にとって手当の削減、というのはどういうことか、を説明します。
私は病理医として病理診断業務に専念している(患者さんに面と向かって行う医療行為はしていない)のですが、沖縄県には病理医に対して特別な手当を与えるという項目があります。(職員給与規程のページをリンクしておきます、第15条の3です。)
引用しておきます。
「医師が病理学的検査の業務にもっぱら従事したときは、勤務1月につき、100,000円を前項の額に加算して支給する。」

これって、すごくありがたい手当です。だって、結構な額じゃありません?
「けっ、こんな額で何をありがたがってる」と思われた方はウェーキンチュ(大金持ちさん)、私とは話が合わないので、このブログを読むのは時間の無駄です、さようなら。

さて、金銭感覚に私との共通点がある方を読者として想定しなおして続けます。
こういう規定があることは就職してから知ったのですが、沖縄県立病院では病理医を大事にしようとしている、病理医が医療に果たす役割、価値、稀少性(?)を公式に認め、待遇面でも評価してくれている、と感じて嬉しかったです。

この手当は「医師手当」の一部とされています。
県は、通達一つでこの手当をゼロにすることができ、労働組合がなければそのことに対して何の交渉もできない、と知った時に私は労働組合の設立に参加することにしました。
ささやかですが、一人の病理医として、また一人の沖縄を愛する者として。
病理医をきちんと評価している沖縄県の姿勢はすばらしいと思いますし、その姿勢を維持し続けることが、沖縄県民に良い医療を提供することになる、と考えるからです。

       ☆         ☆         ☆

医師の立場では、給料を減らされたら辞めてもっと待遇の良い所に行く、というのが自分の生活のため、という気はします。
組合活動なんて余計なことはしないで、もっと待遇が良く、自分を必要としてくれる場所に移る。
多くの医師がそうしているでしょうし、私個人としてはそれでも全然、構わないと思います。

でも・・・なんというのか。
つまるところ、私もこの地域が好きだし、この病院が好きなんですよね。
個人的には、組合に参加した動機としてはそれが大きいと思います。

公的病院の医師が集まって組合を作るのって、自分たち医師のためだけじゃない、と思います。
病院組織を維持するために、医師側からできることの一つなんです。

「こんな病院ない方がいい」と患者さんたち、地域の人たちが思うような公的病院は税金を投入してまで維持する必要はないんでしょうけど、あった方がいい、維持してほしいという病院なんだったら、医師が働きやすい病院でないと、患者さんに優しい医師、高い志を持った医師が集まらないし、いても次々と辞めてしまう。

もう一度、強調しておきます。

病院が維持されることで利益を受けるのは、医師だけじゃなくて、患者さんたちも、なんです。

私たち沖縄県立病院群につとめている医師たちが、忙しい業務の合間に組合を作り、組合を維持し続けるという労力を払ってまで自分たちの労働環境を良くしようとしているのは、それが決して自分たちだけのためではなく、自分たちが沖縄県民に提供する医療のため、すなわち沖縄県民のため、でもあることを知っているから、です。

       ☆         ☆         ☆

さて、話を沖縄県立病院群の医師労働組合に戻します。

組合活動などについてまったく無知な医師が新たに労組を作るのは大変でしたし、作る時に初めて知ったこともたくさんありました。

たとえば、公務員は「労働組合」という名称の「職員団体」を作ることしかできないことを初めて知りました。
労働組合法による組合ではなく、地方公務員法にのっとった「職員団体」が事実上の労働組合なんだそうです。
(今は公営企業法による病院事業局となったので、名実共に労組になりました。)

最大の武器は「団体交渉」です。それまでは給料を下げる、と言われたら「ハイ、了解しました」と従い、仲間内で愚痴を言い合ってガス抜きするのがせいぜいだったのが、交渉の席を設け、集団でこちら側の言い分を主張し、ある程度こちらの意見を反映させた結果に調整することができるようになったのです。
団体交渉の席にどれくらいの人数の医師が集まるか、は交渉の成否を握る一つの鍵となります。私も何度か団体交渉に参加したことがありますが(私は一参加者として黙って参加しただけ)、県の担当者を相手に病院現場の実態、実状を訴える先輩医師の姿には、自分たちが実践している医療への誇り、仕事への情熱が感じられました。
率直な感想は「かっこいいなー」です。
こういう人たちが沖縄県の医療の大事な一端を支えている。私は病理医としてそういう臨床医たちと共にあり、仲間の一人として頑張らなくっちゃ、と思いました。

当初は「県に所属する医師たちが労働組合を作ろう」ということで単一の労働組合を作ろうとしたのですが、一つの団体となることができない(「みなし管理職」の医師と、その他の医師では同じ団体に入れない、院長などの管理職は入れない)ことも作って初めてわかったそうです。
結局「県公務員医師管理職員労働組合」と「県公務員医師職員労働組合」の二つの組合となりましたが、組織は二つでも目的は一つ、活動も常に一緒です。
また、私の尊敬する年長の病理医も管理職扱いで入れませんでしたが「心は君たちと同じだ、応援している、頑張ってくれ」と激励されたことがあります。

このように、沖縄県立病院群で労組ができたのは、背景となる特殊事情もありました。

直接のきっかけは最初の方に書いた「医師暫定手当廃止事件」ですが、県の公務員医師会という組織がもともとあって活動していたこと(公務員医師会で手当について交渉しようとしたが、労組ではないので交渉できなかった)、沖縄県立病院群はその歴史的な理由から他県と異なり大学医局人事とは関係なく病院にいる医師が多かったこと(私自身も医局人事とは無縁です)は大事な要素だったと思います。
県立中部病院で研修後に就職している医師が多く、自分たちが実践している医療に自信と誇りを持っており、沖縄県立病院群を維持することが沖縄県民の利益となるという現場の医師たちの固い信念が、全国でも珍しい公的病院における医師の労働組合活動として結実し今も続いているのだと思います。

設立当初ほどの盛り上がりは今はありませんが、組合としては堅実に活動を続けており、少なくともその後「通達一つで大減俸」という事態はありません。
でも冒頭の新聞報道の通り、今年は団体交渉の大きな材料ができました。久々に盛り上がりそうな予感。
新聞記事に書かれたくらいですから、医師の労働組合が存在しているという事実だけでも県に対するプレッシャーとして機能しているのでしょうが、今年はきっとこれでいろいろあるだろう、と私は思います。
今月末には総会があり、出席するつもりでいます。


関連リンク

「人を不幸にしない医療」
(医師の労働条件、組合設立について章を割いてくれている本です)

沖縄県医師会報 平成12年3月に載った当銘正彦先生のコラム
(これを読むと組合結成当時の熱い気持ちが甦ります・・・)

5月14日、関連リンク追加。

ooyake「はしか"0"キャンペーン週間
(知事部局の医師によるブログ。私の勤務する病院のロビーでも保健所によるキャンペーン活動が行われています。こういう活動に医師は不要とでも?予防医学に従事する医師の手当をなぜ削減しなくてはならないのでしょう?)

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コメント

なるほど、沖縄県の特殊事情というのが少し理解できました。

沖縄県は、研修施設としては、かなりの人気のある県で、毎年、県外からの流入も少なくないのに、医師不足が全然解消されないのはなぜかというのも今回の事件で少し分かったような気がしました。

投稿: ssd | 2007年5月13日 (日) 10時58分

ssdさん、コメントありがとうございました。
沖縄は研修施設としては流入もあるけれど流出も多く、県の対応もご覧の通りのものです。沖縄独特の良い点もあり、悪い点もある、という感じでしょうか。公開の場で私が書けることには限りがありますが、少しずつでも情報を発信していけたらと考えています。

投稿: slummy | 2007年5月14日 (月) 23時01分

医師労組が沖縄で数年前に立ち上がった件について、耳にしたことがあります。いま、このブログを読みまして思い出しました。
沖縄県の先進的な試みに敬意を表したいと思います。

投稿: 座位 | 2007年5月16日 (水) 16時15分

プログ読ませてもらいました。東京で医師組合がない訳は都立病院に思い入れのある医師が少ないからでしょう(逃散先がいっぱいある?)私が都立にいた時は、院長、副院長クラス0か1、部長1、医長2名、自治医大2名、医員2名、非常勤6名で医員以下はローテーションで1-2年で交代です。東京都に骨を埋めようって人は3名ですから組合はできませんね。(ちなみに医員と非常勤医の違いは出身医局が違うだけで年齢、経験とは関係ありません)そういう意味で沖縄県の先生方が少し羨ましくもあります。昔は今とは違って都立の常勤になるには出身医局がほぼ全てで自治医大卒といえども常勤にはなれなかったのを考えると今の都立の惨状は昔日の感があります。

投稿: R・Y・U | 2007年5月17日 (木) 10時56分

もしかしたらと思いますが、医師の残業代の時給単価に相当する計算式で、【医師手当】が入ってないのではありませんか?

地方公務員であっても、労働基準法第37条第4項は除外規定ではありません。

2年間に遡及して集団訴訟を起こせば、不足分と同額の付加金を付けて、倍額請求できます。

是非、ご確認くださいませ

私?
悪人が搾取して貯めた悪銭を分捕って、庶民に渡すネズミ小僧?

その正体は、コメントされている先生方の御推察どおりです(笑)

投稿: ネズミ小僧の付加金倍返し | 2008年11月12日 (水) 12時02分

私は、嫌なら辞めろ派なのですが、沖縄が好きだから、ここに残りたいと努力する人に敬意を捧げます。

投稿: kuma | 2008年11月12日 (水) 20時50分

ネズミ小僧の付加金倍返しさま、kumaさま、コメントありがとうございます。
トラックバックいただいたssdさまのブログから来られたのでしょうか。

確かに医師手当は厚生労働省令ではないので、労働基準法第37条第4項には該当しないでしょうね。

基本的には嫌なら辞めるということでいいんだと思いますが、辞める前に足掻いてみるのもいいのかも、とも思っています。泥舟に乗った気分ではありますが。

投稿: slummy | 2008年11月23日 (日) 03時43分

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