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2007年3月31日 (土)

防衛医大の先生方、ありがとうございました

**以下はあくまでも個人的な見解、意見であって、私の所属する施設や機関を代表してのものではないことを最初にお断りしておきます**

防衛医大による産婦人科医の派遣が3月いっぱいで終了しました。

はるばる名護まで来てくださった先生方、お疲れ様でした。
遠いところを、沖縄県北部地域住民のために、本当にありがとうございました。

この地域で行われた市長選挙の前に、ある候補(現市長)の応援演説にきた当時の沖縄担当相が「休止している産婦人科に防衛医官を派遣する」という発言をしたのが、そもそもの始まりだったと思います。(当時の新聞記事
産婦人科医の退職などによって、産婦人科が休診になっていたのはその前年。
地域には開業産婦人科医が二件あるのですが、それでも地域の基幹病院の産婦人科休診の影響は小さくありません。開業医と病院とではお産など診療内容が違うのです。
(一般の方にはわかりにくいと思いますので、別項目で詳しく説明します。)

さて、3月いっぱいで防衛医大の派遣が終了することについて、今朝の新聞に載っていました。しかし、間違いだらけの記事です。

まず「防衛医官」というのが間違いです。
見出しから誤っている新聞記事には、ため息が出ます。
実際に来たのは、医官(=医師である自衛隊員)ではなく防衛医大産婦人科の文官(シビリアン)である防衛医大の先生方(助手~教授)です。
せめて防衛医大教官、と書くべきでしょう。

「やんばる母と子のいのちを守る勉強会」で沖縄県北部地域の産婦人科問題を現場近くの者たちが話し合っており、赴任後まもなくの勉強会のメモも公開されています。

今日の新聞記事で「週1回診療を受け付けていた」というのも誤解を招く表現で、週1回の外来では新患および産科は受け付けていませんでした。
主な勤務内容は他科からの院内コンサルトのみです(コンサルトは随時)。
県と防衛庁との間で結ばれた協定でそういうことになったのだそうです。
1~2週間で数人の先生が一人ずつ交代で派遣されて来るのですから、継続的に患者さんをみるのは難しく、外来再開は無理でした。

実際に赴任した医師は、感じの良い先生方ばかりでした。
少なくとも私が受けた印象では、国立大学病院に勤務する医師、防衛医大の教官である前にみなさんそれぞれが一人の産婦人科医、という風に感じられました。
派遣された先生方は大学勤務の産婦人科医としての専門領域もあり、病院内での勉強会(EPCにも出席してもらいました)や地域医療機関との学術的な懇話会、地域の人たちを対象とした講演会などでも、お世話になりました。

先生方の産婦人科医としての手腕は、私にはわかりません。
臨床の場で実力を発揮していただく機会が、残念ながらほとんどありませんでした。
いや、一点だけ。
婦人科領域の細胞診における細胞採取はどの先生も適正でした、と言えます。

防衛医大産婦人科が地域で果たしている役割についても教えられました。
沖縄県民のほとんどは知らないと思いますが、防衛医大は埼玉県所沢市にあり、埼玉というのは実は県民人口に対する医師人口が非常に少ない地域なのです。人口は多いのに医大は二つ(埼玉医大と防衛医大)しかないし、語弊のある表現を敢えてしてしまうと、都市部にあるのは防衛医大だけです。そこでの大学病院としての高度な診療を少人数の産婦人科医師たちで行っていた中からの、一般市中病院で産婦人科医一人という状態での沖縄県北部への派遣です。
一人の沖縄県民として、この派遣のために迷惑をかけてしまった埼玉県民に、大変申し訳ないと思わずにはいられませんでした。

派遣された防衛医大の先生のおかげで救われた命も確かにありました。
しかし病院現場から沖縄と埼玉の現状を考えると、この派遣には無駄が多く、防衛医大産婦人科への負担も大きすぎました。
3月に前倒しで派遣終了されたのは賢明な判断です。
政府には、こんな無理な形での医師派遣はもうしないでいただけないか、と申し上げたく思います。

一般論としても「産婦人科休診中の地域中核病院に対して産婦人科医師を一人派遣する」のは、無意味だと思います。
地域中核病院の産婦人科を機能させるには、最低3人の医師。
できれば4人以上の常勤産婦人科医師と、数人の非常勤医が必要でしょう。

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コメント

沖縄の状況を知らなかった私には色々と考えさせられました。
実際の業務を知らない人が軽々しく、派遣する!と発言し、新しく医師が一人でもやってくれば、もう安心なはず、という安易な考えにいつもうんざりします。
そういう中で、とにかく与えられた仕事をこなす立場として、やってこられた防衛医大の先生方にはご苦労様でした、とあんまり関係ない私も言いたい。
産婦人科、特に異常出産の扱いについては、沖縄だけでなく、関西でも大変です。特に新しい臨床研修制度になってから産婦人科を選ぶ人は激減し、関連病院の撤退を余儀なくされています。その一方であたしの勤務する病院は、産婦人科医が多いため、ハイリスク妊婦が急増。毎週行われるカンファレンスで、全ハイリスク妊婦の経過説明をしますが、どんどん名前が増えて、A4裏表の紙が5枚、常に200人前後を抱えています。中には開業医でちゃんとfollowされなかったり、このタイミングで送るか!?な責任押し付けケースも。この方たちは、いつ何時でも急変する可能性があるわけで、他にも普通の妊婦、婦人科疾患、産科救急を抱えてものすごい激務になっています。 NICUも常に満床。自転車操業に毎日みんなで胸をなでおろし続ける日々です。病理医が足りてないのは確かですが、出産を経験し、そして不幸な転帰をたどったケースも目の当たりにすることがある立場からは、産婦人科医と小児科医の優遇、保護措置、完全シフト制の導入など、ほんとに考えてもらいたいと思います。

投稿: ちっち | 2007年4月 1日 (日) 13時12分

埼玉県在住の城西大学の伊関友伸です。
ブログへのトラックバックありがとうございました。

なるほど、新聞記事は現実と大分違いがあるようですね。

防衛医大のある所沢市は、以前、私が埼玉県庁職員(川越土木事務所管理課)の時、1年間担当になって走り回った地域です。
埼玉県でも都市的な臭いのする地域です。

私が退職前の埼玉県立精神医療センターに勤務していた時は、防衛医官(これは間違いがないです)の方が交代で研修に来られていました。

政治に翻弄されて、医療人としてもっと行うべきことがあったのに北部病院に派遣されていたということは良く分かりました。

本当に必要なことは産婦人科医師の待遇の向上と安心して仕事をできる環境だと思います。


投稿: 伊関友伸 | 2007年4月 1日 (日) 22時50分

ちっち殿

コメントありがとう。産婦人科の状況は、ホント他科の私らから見ててもハラハラするよね。(ちっち殿に対してはつい、いつもの口調になってしまう。ご勘弁を。)
ちっち殿の病院みたいに産婦人科医がそれなりの数いてハイリスクを診れる所では、普通の妊婦のお産は制限すべきなんじゃないかと思うよ、業務量を少しでも減らすために。いくら産科医の人数が多いといっても、自院のハイリスク患者の診療をしながら並行して院外からの産科救急も受け入れて続けていくのは、すごい大変なんだよね。
ウチの病院も休診前の数年間は普通の妊婦のお産を開業医に逆紹介(というか、受付時点でお断りというのか…)して、それでしばらくはしのいでたんだけど、当時の病院管理局からは「産婦人科病棟の病床稼働率が悪い(要するに働きが足りない?もっと働け?)」って指導が入って、産婦人科の先生たちは肩身の狭い思いをしてたんだよ。そういう指導も産婦人科医師の退職の遠因になったと私は思うなぁ。私だって病理に係る費用(出費)のことをあんまり事務方に言われると病院辞めたくなるし。
産婦人科と小児科、そして救急については医師の完全シフト制を一刻も早く導入するべきだと思う。でもそのためには医師の数を大幅に増やさないといけないでしょう。私は上に最低3人って書いたけど、3人で8時間交代で24時間365日診療するためには毎日勤務しなくちゃいけなくなる(苦笑)手術には2人が入るから、3人ではどうしたって絶対に苦しい…。
そういえばウチの小児科の先生たちは現場の人間しか絶対思いつかないようなシフト制を考えて、なんとか自分たちの健康を守りつつ、患者さんにも迷惑をかけないように工夫してます。http://www.okinawatimes.co.jp/spe/takara20040304.html
でもそれも病院管理局からは正式には認められてないんだよね…。
http://www.okinawatimes.co.jp/spe/takara20040305.html

投稿: slummy | 2007年4月 2日 (月) 00時03分

伊関友伸さま

コメントありがとうございました。

>政治に翻弄されて、医療人としてもっと行うべきことがあったのに北部病院に派遣されていたということは良く分かりました。

ご理解いただけて嬉しいです。

医療人として彼らがどのような思いを胸に抱き派遣されてきていたか、を考えると、同じ医師として、そして一人の沖縄県北部住民として、頭が下がるばかりです。
主治医が数週おきに不在となっていた埼玉の患者さんたちや、送り出した後の防衛医大産婦人科スタッフの負担も相当あったはずです。

>本当に必要なことは産婦人科医師の待遇の向上と安心して仕事をできる環境だと思います。

おっしゃる通りだと思います。
容易には実現できそうにないのですが、ぜひ、実現して欲しいことです。

投稿: slummy | 2007年4月 2日 (月) 00時38分

はじめまして、県内在住の管屋です。

>ウチの病院も休診前の数年間は普通の妊婦のお産を開業医に逆紹介(というか、受付時点でお断りというのか…)して、それでしばらくはしのいでたんだけど、当時の病院管理局からは「産婦人科病棟の病床稼働率が悪い(要するに働きが足りない?もっと働け?)」って指導が入って、産婦人科の先生たちは肩身の狭い思いをしてたんだよ。

マジですか?そうやって医師の心を折って、病院辞められて、収益さらに悪化、と。笑い話にもなりゃしない。
お役人といい、マスコミといい、レベルが低すぎてあきれるばかりですね。
ちなみに我々の業界も新人が少ないのに、県外が移ってしまう人がいたりして、人手不足が甚だしくなりつつありますよ。

投稿: 南島の管屋 | 2007年4月 3日 (火) 12時07分

管屋さん、はじめまして。
…管屋ってなんでしょう?

>マジですか?そうやって医師の心を折って、病院辞められて、収益さらに悪化、と。笑い話にもなりゃしない。

残念ながら、そうなんです。
指導した人だって、医師を退職させたくて指導してるんじゃないとは思います(そう信じてます…)が、結果的にそうなってしまってるんです。
現場の状況を知らずに、数値や書類だけをみてあれこれするから、こういうことになったんだと思っています。悪循環です。

管屋さんの業界も大変そうですね。お互い、頑張りましょう。

投稿: slummy | 2007年4月 4日 (水) 23時09分

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